2016 Fiscal Year Research-status Report
デング熱・チクングニア熱を1回の検査で鑑別できる簡易診断キットの開発
Project/Area Number |
16K15325
|
Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
井戸 栄治 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 特任教授 (70183176)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | ウイルス / デング熱 / チクングニア熱 / 感染症 / 診断 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、地球を覆い尽くすように航空路網が発達し、活発な貿易や観光旅行などによって生じた激しい人類移動の結果、それまで特定地域に限定していた種々の蚊媒介性ウイルス感染症が世界中に蔓延する現象が急激に増加している。これらは、発熱・頭痛/筋肉痛・下痢(嘔吐)・発疹といった症状だけからでは病原体の特定が容易ではなく、それらの鑑別診断が急務の課題である。本研究は、従来から存在していた個別の病原体に対する遺伝子検査法ではなく、より簡単な検査によって、各病原体を判別できる簡易迅速診断キットを開発することを目的とする。特にここでは、互いに症状が極似していながら、しばしば同時期に流行することがあるデング熱とチクングニア熱の鑑別診断を1回の検査で判別できるイムノクロマトグラム製品の開発を目指している。 デング熱に関しては、既に数社から有効な製品が市販化されているので、平成28年度は特にチクングニアウイルス(CHIKV)に対する検査法の開発を重点に研究を進めた。先ず、そもそも材料としてのCHIKVが日本では限られているので、アフリカの検体について従来より知られているRT-PCR法等を用いてスクリーニングしたところ、2012年にコンゴ民主共和国において原因不明の発熱疾患が大流行し、その中にCHIKVが陽性の反応を示すものがあったことが明らかとなった。Vero細胞を用いてウイルスが分離され、フルゲノムの遺伝子配列が解析された。その結果、この株はほぼ同じ頃周辺諸国から報告された株と共に、従来から知られていたECSA型、西アフリカ型、アジア型のいずれとも異なる独自のクラスターを形成することが明らかとなった。既知の株を含め、全アミノ酸配列をアラインメントすることにより、各型に共通しながら、かつ予想される蛋白質の立体構造の情報とも合わせて、イムノクロマトグラム用の抗体作成に最も適した抗原配列を選定した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
チクングニアウイルス(CHIKV)は、まだ我が国では国内流行しておらず、輸入感染症として幾つかの研究機関がウイルス株を保持しているだけである。これまでの知識ではECSA型、西アフリカ型、アジア型の3種類の型があることになっており、これらのどれもが検出できる検査系を確立する必要があった。ウイルス材料の確保であるが、本研究では幸いにアフリカのコンゴ民主共和国において2012年にチクングニア熱の流行と推定される発熱疾患の大流行があり、その時保存された検体にアクセスすることが可能であった。約100検体の中から、CHIKVのIgM抗体に反応したものが10検体あり、これらを含めて20検体についてCHIKV特異的プライマーを用いてRT-PCRをしたところ、5検体が陽性となり、細胞培養の結果、内2株のウイルス分離に成功した。全ウイルスゲノムの核酸配列を解析した結果、このコンゴ民主株はその前後数年に周辺の隣国であるガボンやコンゴ共和国から報告された株と共に、既知のどの型とも異なるクラスターを形成することが明らかとなった。 ウイルス粒子(抗原)を検出できるイムノクロマトグラム系を作成するためには、各型に依らず粒子中の抗原(蛋白質)を感度良く検出できる特異抗体を作成する必要がある。そのため、既知の様々な株の配列情報と、今回新たに分離された株の配列を並列し、抗体作成に最も適していると思われるエピトープ配列の候補を複数決定し、抗体作成に取り掛かったところである。初年度には、この抗体作成までを完了する予定であったので、その分若干遅れている。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、初めに作成したポリクローナル抗体の性能の評価をGFPで標識した後にウイルス抗原を発現している細胞に当てることによって行い、最も感度が高く、特異性も確保される抗原エピトープの選択をすることから始める。もしも効率の良い抗体が得られるようであれば、直ちに同じ抗原を用いてモノクローナル抗体の作成に取り掛かる予定である。またイムノクロマトグラムに用いる金コロイドについては、幾つかの会社からその用途のための製品が市販されている。これらを用いて、種々の試作品を製作してみる予定である。もっとも、本研究ではデングウイルスの抗原と一目で色彩的に区別できることを最終的に目指しているので、金コロイドと同様の性能を有するカラー・ナノビーズ(COREFRONTやAsahiKASEIなどの製品が入手可能)を利用することを試みる予定である。 デングウイルスに関しては、NS1抗原検出のイムノクロマトグラム法が既に確立しているので、最後はそれとの混合によって目的の簡易診断系確立を目指したい。
|
Causes of Carryover |
当初は、標的となるウイルス抗原に対する抗体作成(これが研究経費のかなりの部分を占める)を初年度中に行う計画であったが、チクングニアウイルスの分離と同定のために想定していたよりも時間が掛かり、これが翌年度に持ち越されたため。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
抗原の配列は決定しているので、直ちに抗体作成に取り掛かる予定である。またポリクローナル抗体の作成費用は比較的安価であるが、モノクローナル抗体作成(外部業者に委託の予定)はより高価であり、前年度から持ち越された分によって十分充当できる予定である。
|
Research Products
(3 results)