2016 Fiscal Year Research-status Report
高精度体内線量測定のための画期的線量計一体型アプリケータの開発
Project/Area Number |
16K15347
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
小泉 雅彦 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (90186594)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
隅田 伊織 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (10425431)
高橋 豊 大阪大学, 医学系研究科, 特任講師(常勤) (40353461)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 密封小線源治療 / In vivo dosimetry / 子宮頸がん腔内照射 / 品質管理 / 品質保証 / 線量計 / プラスチックシンチレータ / 精度管理 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、子宮頸がんや前立腺がんに対する密封小線源治療に3次元画像が使用されるようになり、その治療技術は飛躍的に向上した。しかし、治療の安全性や精度を保証する線量測定技術は治療技術の進歩に後れを取っているのが現状である。既存の線量計は子宮や前立腺といった治療臓器と離れた直腸や尿道に線量計を設置するものであり、その侵襲性、線量測定精度の問題から広く普及するに至っていない。IAEA(国際原子力機関)の報告や最近我が国で発生した子宮頸癌腔内照射における線源位置の誤入力による100人の患者に対する過誤照射による有害事象の報告に関する事故を鑑み、密封小線源治療における線量測定技術、とりわけ生体内をリアルタイムに測定し、線源位置を同定する技術を開発する意義は極めて大きく、国際的にもその重要性は認識されつつある。 本研究では、密封小線源治療時に線源移送のため治療臓器に挿入するアプリケータに着目した。このアプリケータと線量計を一体にすれば、リアルタイムに非侵襲で正確な線量測定が可能となり、治療の安全性、精度を高めることにつながる。しかしながら、このようなアプリケータ一体型線量計の利用には、無視できない課題がある。それは治療精度を高める目的のアプリケータ一体型線量計によって、密封小線源の放射線分布が変化し、放射線治療の質を低下させる懸念があることである。そこで今回我々は、組成が水等価で放射線場の擾乱が無い(放射線分布に影響が少ない)ことで知られる、プラスチックシンチレータを使用することとした。 平成28年度は、密封小線源に対するプラスチックシンチレータの応答が非常に高感度であり、線量計として実用化するには小型化が必要であること、光電変換素子としては光電子増倍管が最適であることを、検証実験により明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度に予定していた項目と、その研究結果は以下の4つである。 (1)線量計一体型アプリケータの設計: 計画の段階では、プラスチックシンチレータのみで線量計とアプリケータを形成することを想定していた。密封小線源治療に使用する192-Irに対するプラスチックシンチレータの発光と光電変換後の電荷量の応答特性を実験で検証したところ、192-Irの線源強度が非常に強いため、専用の電子回路の製作、プラスチックシンチレータの小型化等が必要であることが判明した。そこで、プラスチックシンチレータ線量計とアプリケータを別々に開発し、最終的に統合する方針に変更し、線量計単体の開発、評価実験を行った。また、光電変換部品としては当初想定していたMPPC (Multi-Pixel Photon Counter)より光電子増倍管と光ファイバの組み合わせが適していることも検証実験で明らかになった。線量計を実用化するにあたり、最重要且つ高精度が要求される物理特性である線量直線性を測定し、相関係数=1.0という良好な結果を得た。 (2)線量計一体型アプリケータの妥当性のシミュレーション:(1)により、アプリケータの設計開発の前段階としてプラスチックシンチレータ単体による線量計の開発、評価が優先であることから、次年度に行うこととした。 (3)線量計一体型アプリケータの試作:当初はプラスチックシンチレータを用いて樹脂用3Dプリンタで製作予定であったが、(1)により、プラスチックシンチレータ線量計と統合が容易なアプリケータが必要になり、追加加工が容易シリコンと安価な樹脂製のフレキシブルなチューブを使用して試作を行った。 (4)線量検証用ファントムの作成:単体線量計専用の線量校正、方向依存性、距離依存性計測用ファントムを製作した。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)線量計一体型アプリケータの試作及び妥当性のシミュレーション:昨年度に引き続き、アプリケータの試作を行う。 (2)単体線量計の物理特性評価実験:昨年度開発した線量検証用ファントムを使用して、単体線量計専用の線量校正、方向依存性、距離依存性、温度依存性を測定し、線量計としての精度、不確かさを検証する。 (3)線量計一体型アプリケータの評価実験:患者を模擬したファントムに線量計一体型アプリケータを設置、CT撮影後線量計画を行い、臨床治療と同等の放射線量を曝射する。計画値と線量計の実測値を比較することにより、その実用を検証するとともに、臨床応用に向けた問題点を明らかにする。 (4)臨床使用を想定したソフトウェアの開発:(3)でその実用性が明らかにされれば、将来の臨床使用を想定したGUIベースのソフトウェアも開発する。線量計測機能に付加して、線源位置の同定システムも搭載する。 以上により得た成果を、画期的な密封小線源治療用リアルタイムin vivo dosimetryシステムとして、国内外の学会、論文投稿を通じて発表し、高精度小線源治療の品質保証、医療安全の発展に寄与したい。
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Causes of Carryover |
平成28年度は本研究で開発する線量計一体型アプリケータの前段階として、アプリケータを付属しない光ファイバのみの単体線量計を製作した。過去に例のない線量計である故に、その製造委託する業者の選定にあたり、数社と交渉した。具体的には、0.5㎜厚のプラスチックシンチレータを製作する工程、プラスチックシンチレータをレーザーカッターで0.5㎜四方に切断する工程、プラスチックシンチレータ光ファイバに接着する工程と各々高い技術力を必要とする企業をサンゴバン(株)の協力を得ながら探し、発注にこぎつけた。これらの発注での努力から、当初予算からは若干安価に購入できた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
より実用性の高い線量計一体型アプリケータの開発には数回の試作が必要であり、本年度も少なくとも2-3機の試作機を予定している(1回、40-60万円程度)。線量計一体型アプリケータは小線源治療時に子宮腔内に挿入する必要があるため、最終目標としては相当の小型化(直径1㎝以下)が必要である。しかしながら、試作の最初の段階から小型化を進めることは難しい。そこで、まず加工が容易な大きさ(直径3cm程度)で試作し、評価実験でその妥当性を検証する予定である。一定の成果が得られた段階で、小型化に移行するが直径1㎝以下の線量計一体型アプリケータの製作には高い技術力とノウハウを持った業者が必要であり、当初の平成29年度内見積もり以上に高額になる可能性もある。 さらに、評価実験のための専用のファントム製作、光電子増倍管といった高額部品の購入、学会発表の旅費、論文投稿料の増額が必要となる予定である。
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