2016 Fiscal Year Research-status Report
マイクロRNA解析と確率的評価法を組み合わせた新規体液識別法の開発
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16K15401
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
玉木 敬二 京都大学, 医学研究科, 教授 (90217175)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | DNA多型医学 / 体液識別 / マイクロRNA / RNA / 法医物体検査 |
Outline of Annual Research Achievements |
DNA鑑定では何の体液かを判定することは重要であるが、現行法では特異性が低く劣化した試料での判定は困難である。我々は血液、分子量が小さく比較的安定なマイクロRNA(miRNA)に注目し、識別指標となるかについてヒト各種体液についてqPCRで調べた。倫理委員会の承認を受け、提供の同意を得て血液、唾液、精液、腟分泌液、皮膚表面を湿らせた綿棒で拭ったTouch sampleを採取した。識別マーカーとなりうる候補miRNAを各3種類選択した。RNAを抽出してtotal RNA量と200塩基以下の短いsmall RNA量を測定したところ、血液、精液、腟分泌液からは十分なtotal RNAが回収されたが、唾液、Touch sampleでは回収量が少ないものもあった。small RNAも血液、精液では十分量であったが、唾液、Touch sampleは微量であった。reference RNAのCq値の平均値による補正を行い、各体液試料の候補miRNAの発現を観察した。血液ではmir-144-3p、mir-451a-5p、精液ではmir-888-5p、mir-891a-5pが特異的に高発現していた。唾液ではmir-203a、mir-205-5pが高発現していたが、腟分泌液、Touch sampleでも同程度に発現しており定性的な判定は困難と考えられた。腟分泌液ではmir-155-5p、mir-1260bが比較的高発現であったが、精液でも高発現しており定性的な判断は困難と考えられた。Touch sampleはmiRNAの発現が殆どなく、由来する細胞成分についての再検討が示唆された。この結果、今回検索したmiRNAマーカーは血液及び精液の判定に有効であるが、唾液、腟分泌液、Touch sampleでは単独マーカーによる識別は困難で、複数のmiRNA組み合わせた定量的な評価が必要であると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の研究計画において、in silicoでのmiRNA検索を徹底したため、割合短時間でそれぞれ数種類のmiRNAの候補マーカーを挙げることができた。また、試料の採取に関してその特殊性からボランティアを募る手段がまとまらず研究遅滞が予想されたが、産婦人科と泌尿器科の医師の協力に恵まれ、試料採取や倫理委員会審議が割合スムーズに進行した。一方、実験遂行にあたっては、試料の劣化状態を確認するため、電気泳動によるRNA integrity number (RIN)の値を指標に用いる予定であったが、予想に反して、体液試料のRNAの電気泳動図では分子量の大きいRNAがほとんど検出されず、RINはいずれの試料でも新鮮な細胞から得られる値を下回って、多くが劣化試料と判断されることとなった。しかし、血液や精液は多量の液体成分を含んでいるので、細胞由来の比較的高分子のRNAよりも液体成分中にみられる低分子のRNAが多く回収されたためであり、RINの値が小さくても必ずしも劣化が非常に進行しているとはいえないことが示唆された。今後、より実際的な実務試料分析を想定して、紫外線などによる実験的劣化試料を扱うことになるが、その際のmiRNAの劣化程度の指標としてどのようなものが適当であるのかを現在検討中である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究により、血液と精液に関しては特異的なmiRNAマーカーが得られたので、定性的な判定が可能となったが、唾液、膣分泌液、touch sampleに関しては複数マーカーを合わせた定量的解析が必要となることがわかった。今年度はこの定量的解析システムの構築がまず第一の研究方策となる。一方、現在の法医鑑識領域でのDNA検査はSTR型をキャピラリー電気泳動で解析する方法がとられている。しかし、国際的には次世代シークエンサーが普及し始めており、コストや解析時間、塩基配列の判定精度が改善されればいずれは移行されていくと考えられる。このため、現在、リアルタイムPCRで得られた⊿Cq値のデータがあるが、論文の中には次世代シークエンサーで得られたmiRNAのリード数のデータを発表しているものもある。そこで、本識別システムの検査データ利用はリアルタイムPCRで得られる⊿Cq値だけでなく、次世代シークエンサーで得られるリード数にも対応した識別システムを構築することを考えている。一連のモデルの設定および検証にはそれぞれ新たな試料を用意し、in silicoでのロジスティック回帰とシミュレーションを用いて構築し、複数のモデルの中で感度、特異度、正答率を基に最も優れた精度を示すモデルを採用することを考えている。実務利用のためのもう一つの重要な研究はシステムの検証である。実際の体液及び混合した体液を用いて正しく判定されるか否かを検証する。この場合、法医実務により即した試料とするため、ボランティアから得られた体液斑をそのまま利用するのではなく、紫外線や酸などの劣悪な環境下に曝された体液斑を用いて、どの程度まで劣化した試料であれば判定できるかを検討する。
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Research Products
(2 results)