2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K15463
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
森本 充 国立研究開発法人理化学研究所, 多細胞システム形成研究センター, チームリーダー (70544344)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 肺胞 / Notchシグナル / オルガノイド |
Outline of Annual Research Achievements |
肺胞の形成は胎児発生の後期に始まる。出生前には最低限必要なI, II型肺胞上皮細胞と毛細血管など間充織細胞を配備するだけで、本格的な肺胞の拡大、成熟化は出生直後に行われる。健全な小児の肺胞では、吸気で膨らんだ肺胞空間で上皮細胞が増殖、分化するとともに、間充織から肺胞中隔がせり上がり肺胞面積を拡大させる。本研究計画では、肺胞上皮細胞の増加、マーカー遺伝子発現増加、肺胞中隔の形成を“生後の肺胞成熟”と定義する。 申請者は最近Notch2シグナルが生後の肺胞成熟に重要な役割を果たすことを発見した(Tsao et al., 2016)。N2-cKOは生後3日目頃から肺胞形成の遅延が見られ、2ヶ月齢になるころには肺気腫様の組織像を示すようになる。本研究では、N2-cKOマウスと単離肺胞上皮細胞の3次元培養法を利用して、出生が引き金となる肺胞成熟の分子メカニズムの解明を目的とする。 本年度はマウス肺からII型肺胞上皮細胞を単離し、肺胞間充織細胞と混ぜてマトリゲル中で3次元培養の実験計画立に挑戦した。肺胞上皮の組織幹細胞であるII型肺胞上皮細胞は、3次元培養下で増殖すると、上皮構造を保ったまま中空の球体”alveolosphere”を形成する。alveolosphereの実験系では肺胞上皮細胞の増殖と分化をin vitroで再現できる。その結果alveolosphereを無事に作成することができた。今後はN2-cKOマウス肺から調整したalveolosphereの細胞増殖とI型、II型細胞の割合を検証することで、Notchシグナルの肺胞組織幹細胞における役割を検討する。さらにN2-cKO及び野生型マウス肺から単離したII型肺胞上皮細胞からmRNAを単離してそれぞれマイクロアレイにかけ、同細胞内のトランスクリプトームを解析する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はマウス肺からII型肺胞上皮細胞を単離し、肺胞間充織細胞と混ぜてマトリゲル中で3次元培養の実験計画を実行した。肺胞上皮の組織幹細胞であるII型肺胞上皮細胞は、3次元培養下で増殖すると、上皮構造を保ったまま中空の球体”alveolosphere”を形成する。AlveolosphereはII型肺胞上皮細胞だけではなく、II型から分化したI型も多く含まれる。すなわち、alveolosphereの実験系では肺胞上皮細胞の増殖と分化をin vitroで再現できる。すでにII型肺胞上皮細胞の単離法を確立していた京都大学呼吸器内科に出張し、同技法を習得した。我々の研究室で、野生型マウス肺からII型肺胞上皮細胞を単離した。II型肺胞上皮細胞の培養には肺間充織細胞を加える必要があったため、肺組織を消化し、上皮、血管、血球を取り除いた細胞集団を回収した。II型肺胞上皮細胞と肺間充織細胞を1:1で混合し、マトリゲルに埋め込んで10-14日間培養を行った。マトリゲル中にalveolosphereを検出した。組織切片の観察から中空状の組織構造と、I型、II型肺胞上皮細胞を検出することに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
N2-cKOマウス肺からalveolosphereを調整し、細胞増殖とI型、II型細胞の割合を検証する。Notch2シグナルが細胞増殖に重要であった場合、野生型と比べて細胞数の少ない、小さなalveolosphereを形成するだろう。もしも細胞分化に必要であった場合、alveolosphere内のI型II型肺胞上皮細胞の割合に違いが見られるようになるだろう。表現型が見られなかった場合、N2-cKOマウスの肺胞成熟異常の表現型は近隣組織からの間接的なものであり、上皮細胞の内因的なNotchシグナルとは無関係であることが明らかになる。 検証により、Notch2シグナルの肺胞上皮細胞における役割が明らかになったら、次に転写ネットワークを解析する。本研究計画では「トランスクリプトーム」をmRNAレベルから推定する各遺伝子の転写量の解析とし、「転写ネットワーク」は転写因子同士の関係を中心に捉えたネットワークの解析と定義する。N2-cKO及び野生型マウス肺から単離したII型肺胞上皮細胞からmRNAを単離してそれぞれマイクロアレイにかけ、同細胞内のトランスクリプトームを解析する。ここでは特に、KO細胞と野生型細胞の間で顕著に異なる発現量を示す遺伝子を選び出す。選んだ遺伝子の発現の変化を出生の前後で比較し、顕著に差がある遺伝子を選び出す。次に出生直後の転写ネットワークを明らかにするために、選び出した遺伝子の転写開始点上流5Kbpに存在する転写因子結合配列を網羅的に同定する。同様の挙動(発現の増加や減少)を示す遺伝子間で共通する転写因子に注目し、Notch2シグナルの下流でII型上皮細胞を制御している転写因子と、転写因子間のネットワークの推定を試みる。 推定された転写ネットワークの信頼性の検証をする必要がある。時間の許す限り変異マウスの作成を進める。
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Causes of Carryover |
同じ試薬を使う他の研究課題と試薬を共有することで消耗品代をほとんど使用せずに済んだ。来年度の消耗品、マイクロアレイ解析費用に充てる
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
実験の進行状況に殉難に対応しながら、順次消耗品、マイクロアレイ用品を購入する。
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Research Products
(5 results)