2016 Fiscal Year Research-status Report
時計遺伝子発現測定に基づいた神経変性疾患者の概日時計機能評価
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16K15562
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
明石 真 山口大学, 時間学研究所, 教授 (30398119)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 認知症 / 概日時計 / 時計遺伝子 / 行動概日リズム |
Outline of Annual Research Achievements |
行動リズム異常が著しい高度認知症を患う後期高齢者を被験者とした。患者は自力歩行ができず、一日のほとんどを施設内で生活しており、太陽光を浴びる機会に乏しい。年齢に伴って光受容能の低下が起こることから考えて、概日時計機能障害が起きていることが推察される。被験者の光環境の改善を実現するために、眼鏡型のLED光照射装置を使用した。起床直後から午前中のうちに、この装置を1回あるいは2回装着してもらい、概日リズムの調整効果を調べることにした。患者の毎日の生活スケジュールは規則正しいことから、環境要因において患者間で大きな違いは存在しない。高齢者の行動リズム異常は、概日時計システムのさまざまな段階の機能不全に起因する可能性がある。いずれかの段階で異常が起きた場合、末梢概日時計の位相に異常が生じるはずである。そこで、私たちは、引き抜いた毛根に付着する細胞集団の時計遺伝子発現リズムを調べることで、末梢概日時計の位相を評価することにした。患者の頭髪を、約6時間おきに数本から最大10本採取して、精製や測定に使用するまで凍結保存した。全サンプルが集まってから、リアルタイムPCR法によって時計遺伝子のRNA発現量を測定した。どの被験者でも、光照射の前後とも、3つの時計遺伝子発現において明確な概日リズムが確認できた。過去の私たちの報告によると、健常者の場合、社会的起床時刻の1から4時間前くらいにPer3の発現ピークが検出された。今回の推定結果では、患者のPer3の発現リズムは、光照射の有無にかかわらず、午前2時から7時の間にピークを示していた。したがって、患者の起床時刻が6から7時であることを考えると、この推定された位相はほぼ正常であるとみなすことができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画では、平成28年度において、(1)臨床研究の準備と予備調査、(2)被験者の行動リズムを測定、(3)被験者の時計遺伝子発現測、(4)毛根培養実験の準備、の4つを実施する計画であったが、この全てを順調に実施することができた。さらに、平成29年度に予定していた光照射についても実施することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今回の被験者は自力歩行ができず一日のほとんどを施設内で生活していることから、太陽光を浴びる機会に乏しいのみならず、年齢に伴って光受容能の低下が起こることから考えて、概日時計機能障害が起きていることが推察された。それにもかかわらず、今回の私たちの実験結果より、被験者の末梢概日時計の位相は正常であることがわかった。したがって、非光同調が関与している可能性が考えられる。非光同調刺激の中でもとりわけ摂食タイミングは、末梢の時計遺伝子発現を強力に調節することがマウスの研究によって良く知られている。実際、今回の被験者の食事時間は極めて規則正しかったために、この刺激が末梢の概日位相を正常に維持していた可能性が強く疑われる。そこで、私たちは、重度認知症を患う高齢者のうち、規則正しく時間が決められた食事ではなく、中心静脈栄養法により常時栄養を摂取している人を対象に末梢時計遺伝子の発現リズムを調べることを計画している。これにより、概日位相の乱れが確認できた場合、この成果は神経変性疾患患者の概日位相の乱れを防ぐために規則正しい食事が重要であることを示すだけにとどまらず、ヒトにおいて概日位相調節に摂食刺激が作用することを初めて示すことになる。
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Causes of Carryover |
平成28年度は実験準備に時間がかかったため、実施した被験者数が少なかった。そのため、当初の予定よりも試薬などの消耗品費や人件費・謝金の支出が少なかった。技術補佐員の雇用も必要な段階ではなかった。また、培養実験では当初の予想よりも実験系が速やかに機能したため、試行錯誤にかかる費用を省くことができた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度は被験者数を伸ばすとともに、培養実験を本格的に始動させることで、次年度使用額を効果的に運用する考えである。また、技術補佐員の雇用費としても使用する考えである。
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Research Products
(4 results)