2016 Fiscal Year Research-status Report
線源内療法を視野に入れた放射性同位元素ナノコンテナ製造の試み
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16K15579
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
大槻 勤 京都大学, 原子炉実験所, 教授 (50233193)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | α線β線核種 / 内包フラーレン / 線源内療法 / ホットアトム / 医療用RI |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、α線核種Ra-223やβ線核種Y-90などの線エネルギー付与(LET)の高い放射線が、がん治療に有効であることが分かり、放射性物質の核医学利用が注目されている。また、Tc-99mなどの単一γ線(single photon)放出核種は生体中でのトレーサーとして広く利用されている。特に、Tc-99mは半減期6時間で安定なTc-99になるため医学応用に適している。さらにTl-201やAu-194は心筋や前立腺腫瘍のシンチグラムに期待されている核種である。 我々は、1996年のBe@C60やXe@C60などを量子ビーム(中性子線、陽子線、光子など)の原子核の反跳効果を利用した種々放射性元素のC60への内包実験を行ってきた。また、共同研究者らにより第一原理分子動力学シミュレーションを行い、どの様な原子がC60に内包可能かを調べてきた。結果として重い原子であるα線放出核種のPo-210などでもC60への内包に成功している。本研究では、医学利用可能なα線源やβ線源を、内療法を視野に入れて放射性同位元素ナノコンテナの製造を試みている。また、それらの大量合成法の検討も行っている。ここでは医療用放射性同位元素の種類と内包のための照射エネルギー範囲の検討を行なった。放射性同位元素をトレースすることで、その内包C60の収率の見積りを行っている。実験としては加速器や原子炉照射等が整備されている本研究施設を利用し、医療に有用な放射性同位元素を製造しその原子核反応の反跳エネルギーを利用し、放射性異原子を内包させる手法を用いる。具体的には、実際にプロセスとして反跳効果を利用してTc-99m@C60の可能性を調べている。また、同様の方法により、Au-194@C60の合成を試みている。内包第一原理分子動力学シミュレーションも行いつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本実験では加速器および原子炉等からの量子ビーム(中性子、陽子、光子など)を用いた原子核反応による反跳効果を利用し、C60への各種放射性同位元素の内包化を目指した実験的検討を行っている。特に本実験では生体内イメージングや線源内療法を視野に入れたTc-99m及びAu-194、At-211, Cu-67などの放射性同位元素内包の可能性(Tc-99m@C60, Au-194@C60, Cu-67 etc.)の検討を行っている。このためにまず、Tc-99mの製造量を見積もる実験を行っている。本実験では20MeV~40MeVまでの電子線によるMo-100(γ,n)Mo-99反応→β→Tc-99mによりTc-99mの収率の検討を行ない、学会発表等を行った。今後、核的反跳を利用したTc-99m@ C60の可能性について調べる。電子線加速器からの30MeV、100μAの電子線を用いて照射を行った。標的物質内では、Mo-100(γ,n)Mo-99反応が起き、この核反応では中性子や即発γ線の放出を伴うので、核反応生成物のMo-99は反跳を受け,この反跳を利用したMo-99のC60への内包をする実験に関しては続行中である。 本研究施設には研究用原子炉KURが設置されていて、実験はこの原子炉を用いて放射性同位元素を製造し、ホットアトム(反跳)効果を利用し、医学利用可能な線源を、内療法を視野に入れて放射性同位元素ナノコンテナの製造の試みを目的としていた。しかし、福島第一原発事故後に原子炉や核燃料等に新しい規制基準が導入され、この3年間研究用原子炉 の停止を免れることができなかった。よって、多少進捗に遅れが生じている。本年7月より研究用原子炉も稼働予定であるので、多少遅れてはいるが、原子炉を用いた実験も可能となる。
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Strategy for Future Research Activity |
医療に有用な放射性同位元素を製造しその原子核反応の反跳エネルギーを利用し、放射性異原子を内包させる手法を用いる。本研究では、さらに量子ビーム(中性子線、陽子線、光子など)実験により、核反応による有用RIの素過程の収量見積もりを継続する。また実際に反跳効果を利用してTc-99m@C60の可能性を調べる。また、同様の方法により、Au-194@C60等、他の核種についてもの合成を試みる。 平成28年度は研究用原子炉が稼働せず、(n,γ)反応を利用した実験が不可能であった。本年7月より研究用原子炉(KUR)が稼働予定でるので実験が再開される。これらの医学利用可能な線源を、内療法を視野に入れて、(n,γ)反応を用いて放射性同位元素ナノコンテナの製造を試み、大量合成法の検討も行う。 具体的にはまずMo-98(n,γ)Mo-99の製造試験を行い、次にC60との混合物を原子炉で照射することにより、(n,γ)反応による反跳でC60に内包可能かどうか調べる。また、他の有用核種Cu64[Cu-63(n,γ)Cu-64反応], Rh-105[Ru104(n,γ)Ru-105反応], Zn64[Zn-64(n,γ)Zn-65反応], I-131[Te-130(n,γ)Te-131→β-→I-131反応]などの収率をしらべ、同様にC60内包フラーレンの可能性を探る。さらに、陽子線加速器によりPt-194(p,n)Au-194反応によりC60に内包可能かどうか調べる予定である。
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Causes of Carryover |
平成28年度は研究用原子炉KURが新規性基準対応で使用できなかったので、原子炉を用いた実験ができなかった。また、平成28年度に購入予定であったフラーレン分離用カラム(消耗品扱80万円相当)及びその他の消耗品は別プロジェクト予算で調達できたため、物品費の使用が見送られ、平成29年度の研究用原子炉KUR稼働後の実験設備(消耗品)に回した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度は研究用原子炉KURが新規性基準対応に合格し、7月より運転予定である。実験用消耗品の調達及び国際会議での発表数回及び情報収集を予定している。
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