2017 Fiscal Year Research-status Report
マイクロビームを用いた細胞核・細胞質照射における防御細胞応答の解析
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16K15586
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Research Institution | National Institutes for Quantum and Radiological Science and Technology |
Principal Investigator |
小西 輝昭 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学総合研究所 放射線障害治療研究部, 主任研究員(定常) (70443067)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | マイクロビーム / 細胞質 / DNA二本鎖切断 / γ-H2AX / 陽子線 / DNA修復 |
Outline of Annual Research Achievements |
放射線の生物効果は、放射線誘発DNA損傷が主因となり、細胞死、突然変異、がん化などの終焉を決定すると考えられている。また、一方で、細胞質への影響については、近年、突然変異頻度が増加するなどの新しい知見が報告されつつあるが、機序解明には至っていない。我々は、細胞質損傷がトリガーとなり、DNA損傷修復を修飾し、放射線感受性を左右するのではと考えた。そこで、陽子線マイクロビーム細胞照射装置SPICEを活用して、細胞核・質の狙い撃ち照射を行った。細胞核にのみ照射した条件と比較して、細胞質にのみ、さらには核・質の両方に照射するといった三条件での照射を実現した。そして、同方法によってDSB誘発と修復に着目して解析を行った。平成29年度は、SPICEを用いた照射実験を合計8日間実施した。DSB検出には、γ-H2AXを指標に算出した。まず、核にのみ照射する条件において、照射粒子数最大500個までは、照射1hr後のγ-H2AX量はほぼ線形的な増加を示した。一方で、細胞質照射では、有意な増加は見られなかったが、照射後4時間後におけるγ-H2AX量は、照射粒子数依存的な増加を示した。また、活性酸素種(ROS)の発生も、照射粒子数依存的にROS発生が高くなることを確認した。つまり、細胞質損傷を起因として内在性ROSが増加し、間接的にDSBを誘発したと考えられた。また、両方照射についても、照射4hr後におけるγ-H2AX量が核のみの照射より高く、また細胞質への粒子数に依存して高いことを確認した。しかし、これとは反対に、照射16hr後、24hr後における残存するγ-H2AX量は両方照射の方が核のみの照射にくらべて低い値を示した。これより、細胞質ダメージによって、ROSが産生し、DSBを誘発する一方で、DSB修復経路を活性化することで修復を促進した。非常に新規性かつ重要な知見を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度において、① 細胞核照射実験において、照射粒子数100個-500個の範囲におけるγ-H2AX量の測定および照射後の経時的な変化の測定を行うことを目的とし、照射粒子数100個、250個、500個の三点において照射後1時間後の結果を完成させた。また、照射1,4,8,16,24時間後における残存γ-H2AX量の測定についても完了した。②細胞質照射実験についても、細胞核照射の粒子数、ならびに残存するγ-H2AX量の経時変化について結果を取得した。さらに、照射4時間後に照射粒子数依存的にγ-H2AXが増加するといった特徴的な現象を確認した。また、このγ-H2AX量の増加について、活性酸素種(ROS)に着目し、DCFH-DA蛍光試薬を用いて細胞内ROS発生量の測定を実施した。その結果照射4時間後におけるROSは細胞質への照射粒子数依存的に増加していることを確認した。③核・質の両方照射については、細胞核への照射粒子数250個と500個のそれぞれの条件において、細胞質へ照射粒子数250個または、500個の二つの条件で実施し、また残存するγ-H2AX量についても照射1時間後に加えて、4,8,16,24時間後まで測定を完了した。その結果、照射4hr後のγ-H2AX量が核のみの照射より高く、また細胞質への粒子数に依存して高いことを確認した。それとは反対に、両方照射では、核のみに照射した場合に比べて、照射16時間後、24時間後では残存するγ-H2AX量が有意に少ないことを確認した。以上より、細胞質ダメージによって、ROSが産生し、DSBを誘発する一方で、DSB修復に関連する経路を活性化することで修復を促進したのではないかと考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までに、細胞質照射により誘発された細胞質損傷によって活性酸素種(ROS)が発生すること、また間接的にγH2AXを誘発することを確認している。また、細胞核・質の両方照射は、細胞核のみの照射に比べて、照射16,24時間後の残存するγH2AX量が少ないことから、細胞質損傷がトリガーとなって、DNA二本鎖切断修復を促進しているのではないかと考えられた。しかし、細胞質損傷とDNA二本鎖切断修復との直接的な因果関係についてのエビデンスは得られていない。また、細胞質に高密度に存在するミトコンドリアの損傷・断片化とROS発生についても直接的な関連性を証明できていない。そこで、 ①細胞質損傷とDNA二本鎖切断修復タンパク質の活性化について検討を行う。細胞質への照射粒子数 100、250、500において、リン酸化ATM、リン酸化p53、リン酸化CHK2について免疫蛍光染色法によって可視化し、蛍光顕微鏡画像より評価する。 ②細胞質損傷としてミトコンドリアへの損傷によるROS発生を測定する。生細胞で使用可能なスーパーオキサイド検出試薬MitoSOXを使用し、細胞あたりの蛍光量を算出することにより、スーパーオキサイドを評価する。また、COXIVはミトコンドリア主要タンパク質の一つであり、これを免疫蛍光染色により可視化することにより断片化したミトコンドリアを有する細胞を検出する。照射粒子数に対する関係、並びに照射後経時変化についても検討する。
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Research Products
(6 results)