2016 Fiscal Year Research-status Report
ゲノム編集技術とiPS細胞を利用した脳腫瘍に対する遺伝子細胞療法の開発
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16K15648
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
戸田 正博 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 准教授 (20217508)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 脳腫瘍学 / ゲノム編集 / 幹細胞 / 自殺遺伝子 |
Outline of Annual Research Achievements |
腫瘍幹細胞 (BTSC) は、腫瘍周辺の正常脳組織へ浸潤する性質を有し、悪性神経膠腫が極めて治療困難な要因の一つと考えられている。これまで、悪性神経膠腫に対する様々な遺伝子治療が開発され、我々もherpes simplex virus vector (HSV vector)を中心に治療研究を進めてきたが、欧米での臨床試験の結果では、浸潤性の悪性グリオーマに対する治療効果は十分ではなかった。一方、神経幹細胞(NSC)は、脳内を遊走し脳腫瘍へ集積する性質を有することから、治療遺伝子を搭載する細胞としての役割も注目され、とくに最近、iPS 細胞の臨床応用が開始されたことから、ヒトNSC の供給も現実的になりつつある。そこで本研究では、治療困難な浸潤性BTSC の根絶を目指してiPS 細胞誘導NSC を用いた新たな遺伝子細胞治療の開発を行う。 本研究では、早期に臨床応用可能なプラットファーム技術を確立するため、すでに臨床応用された自殺遺伝子治療のHSV-tKとGanciclovir (GCV) を利用した。はじめにヒトiPS細胞およびiPS細胞から分化誘導したNSCの各段階でレンチウイルスベクターを用いてHSV-tK遺伝子を導入し、それぞれの細胞に対するGCVの薬剤感受性を調べた。つぎに、HSV-tK遺伝子発現NSCと脳腫瘍細胞を共培養して、GCV投与後の脳腫瘍細胞に対するin vitroでのbystander effectを確認した。さらに安定した遺伝子発現を得るため、CRISPR/Cas9システムを使用して、iPS細胞のハウスキーピング遺伝子であるGAPDH領域にHSV-tk遺伝子を挿入した。HSV-tK 遺伝子挿入および発現を確認し、現在、治療用細胞となるNSCへの分化誘導を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
HSV-tK遺伝子を発現するiPS細胞から分化誘導したNSCの作成に成功し、GCV投与後の脳腫瘍細胞に対するin vitroでのbystander effectを確認した。さらにゲノム編集技術(CRISPR/Cas9システム)を利用して、iPS細胞のGAPDH領域にHSV-tk遺伝子を挿入し、HSV-tK 遺伝子発現iPS細胞の作成に成功した。本年度の目標はおおむね達成することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
・in vivoモデルにおける遺伝子発現NSCの遊走性とグリオーマへの集積性の解析 ①ヒトグリオーマモデル:ルシフェラーゼ遺伝子発現ヒトBTSCおよびグリオーマ細胞を免疫不全マウス脳内移植し、ヒトグリオーマ・マウスモデルを作成する。さらにヒトiPS 由来NSC(HSV-tK 遺伝子導入)を移植し、経時的に組織解析することにより、グリオーマへの集積性を解析・評価する。②マウスBTSCモデル:マウスBTSCにルシフェラーゼ遺伝子導入後、脳内移植モデルを作成する。一方、HSV-tK遺伝子発現マウスNSCを作成し、マウスBTSCモデルに移植して、経時的に組織解析することにより、BTSCへの集積性を解析・評価する。
・in vivo モデルにおける遺伝子細胞療法の有効性の解析 ①ヒトグリオーマに対する治療効果の検討:上記ヒトグリオーマモデルに、HSV-tK遺伝子発現・ヒトiPS由来NSCを移植し、GCVを投与する。GCV投与後の治療効果について、IVIS imaging system を利用したin vivo腫瘍イメージングおよび生存解析を行う。また、治療効果の機序解明のため、経時的に脳組織を摘出し、組織学的解析を行う。②マウスBTSCモデルに対する治療効果の検討:上記マウスBTSCモデルにHSV-tK遺伝子発現・マウスNSCを移植して、GCVを投与する。GCV投与後の治療効果について、in vivo腫瘍イメージングおよび生存解析を行う。また、経時的に脳組織を摘出し、BTSC殺傷効果に加え、免疫反応について組織学的解析を行う。
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Causes of Carryover |
効果的に物品調達を行った結果であり、次年度の研究費と合わせて試薬・消耗品などの購入に充てる予定である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、in vivoでの自殺遺伝子細胞療法の効果およびその機序の解析に重点を置くため、動物実験が主体となる。In vivo イメージング、組織学的解析などに必要な関連試薬を含め、多くの動物を購入する予定である。
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