2016 Fiscal Year Research-status Report
ブタ肝臓分解物由来生理活性物質による脊髄損傷治療薬の開発
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16K15660
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
羽二生 久夫 信州大学, 学術研究院医学系, 准教授 (30252050)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
塚原 完 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(薬学系), 准教授 (00529943)
松田 佳和 日本薬科大学, 薬学部, 教授 (20377633)
高橋 淳 信州大学, 学術研究院医学系, 准教授 (60345741)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 脊髄損傷 / 生理活性物質 / リン脂質 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はヒトでの記憶学習機能改善効果が見られたブタの肝臓をプロテアーゼ処理したブタ肝臓分解物(PLD)に多く含まれている脂質成分が脊髄損傷に対しても有効な生理活性があるのではないかと考え、その有効性の有無を検証し、成分特定、さらにそのメカニズム解明を行い、新たな脊髄損傷治療の可能性を明らかにすることが目的である。そこで我々はまずPLDの脊髄損傷に対する効果を評価するための実験系の構築から始めた。この評価は大きく動物実験と細胞実験に分かれている。動物実験としてはラットとゼブラフィッシュでの脊髄損傷モデルの構築を行った。さらにこのモデルへPLDを投与するための餌の調製を行った。 次に細胞実験ではまずは神経細胞での評価を行う事とし、PC-12ラット褐色腫由来細胞、SK-N-SHヒト神経芽細胞腫細胞、Neuro-2aマウス神経芽細胞腫細胞を用いてPLDの細胞増殖と神経伸長への影響を評価した。さらに、細胞実験ではPLDの主要脂質成分のうち入手可能なリン脂質、およびその代謝物による細胞増殖と神経伸長への効果も評価することとした。これはPLDの有効性の確認を行ってからその成分の特定を行う予定でいたが、研究期間内での物質の特定を確実にするためである。具体的には最も多く含まれているホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルエタノールやリゾホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、また、代謝物であるリゾホスファチジン酸を含む10種類のリン脂質を評価した。その一方で、本研究で使うPLD自体のリン脂質の成分の詳細な同定を行い、含有量が明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
脊髄損傷モデルラットについては申請書に記載したWrathallらのグループが開発した方法を試みた。しかし、10 gのおもりを落下させたラットでは安定した脊髄損傷モデルとならず、安定したPLDの脊髄損傷回復機能の評価に適さなかった。このため、他の方法による安定した脊髄損傷モデルラットの作製方法を模索し、椎弓切断法によるモデルを経験者から指導してもらって脊髄損傷モデルラットが安定して作製できるようになった。これと同時にヒトが経口摂取していることからラットへPLDを与えるための餌の調製方法をオリエンタル酵母と検討を重ねた。しかし、現在、健康食品として販売しているPLDのタブレット状前の粉末状態のものをヒトで有効性が示された量で混餌する事は出来ないという結論となった。そこで、我々はPLDの投与方法は直接、粉末調製前の液状のPLDを直接、経口投与する方法で与える事とした。また、このような理由からゼブラフィッシュの餌としてPLDを混餌する事ができない事が判り、かつ、液状PLDの水槽内への直接投与も量的条件設定の難しさと生育環境の劣化となることから、脊髄損傷の評価に適していない事が判った。このため、ゼブラフィッシュでの脊髄損傷モデルでのPLD自体の評価は行わない事とし、細胞を用いた実験からのターゲットリン脂質が特定された上で評価を行う事とした。細胞実験での評価は興味深く、PLD自体での細胞増殖に与える影響はPC-12では増殖性を示す濃度が二峰性を示したのに対し、SK-N-SHとNeuro-2aでは増殖を促進するピーク濃度が存在した。このようにPLD自体の神経細胞での有効性は確認でき、さらにPLDに含まれる脂質成分による評価に入っており、目的である脊髄損傷修復物質の同定のための研究はおおむね順調に来ている。
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Strategy for Future Research Activity |
PLDの細胞レベルでの効果が確認されたが、この効果が脊髄損傷モデル動物で確認できるかを最優先して行う。予備実験で行ったラットの椎弓切断法による脊髄損傷モデルでもやはりヒトでは見られない3週目から自然治癒による回復が見られた。よって、椎弓切断後から毎日、液状PLDを経口投与し、当初の予定通りのタイムスケジュールである1, 3, 7, 14, 21日後でのBasso-Beattie-Bresnaham(BBB)スコアによる評価を行う。ただし、液状PLDの入手量に制限があるため、これに用いるPLD濃度は体重換算でヒトでの有効性が見られた濃度のワンポイントで行う事とする。最終日に組織学的評価のための標本作製を行い、損傷部の回復状態を形態学的に評価する。このPLDによる回復促進効果が示されれば、細胞実験で有効性を示したリン脂質を投与したPLD中に含まれる量と同量を経口投与し、回復促進効果を確認する。この最初のPLD自体での動物実験を行っている間に、各リン脂質成分による神経突起伸長確認、軸索再生マーカーのリアルタイムPCRによる検証、また、各種グリア細胞での増殖性と生理機能評価を行い、ラットでの機能回復効果を検証するための候補リン脂質をリストする。このリストされたリン脂質成分の作用機序を明らかにするためにプロテオミクス分析とマイクロアレイ分析によるスクリーニングを行って、その作用機序を絞り込む。このリン脂質にターゲットを絞った実験系でPLD自体の効果と各リン脂質成分での効果が一致しない場合、未知の成分を検討する必要があることから、メタボロミクス解析を外注で行い、有効成分の同定を行っていく。
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Causes of Carryover |
ラットとゼブラフィッシュ用のPLDを混入したエサを製造する予定であり、年度末まで検討を続けた上でその判断が不可となった事とPLDのリン脂質成分分析を他予算で行ったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本学が所有するプロテオミクス分析のためのLC-MSは能力が高くなく、本研究で明らかにすべきメカニズム解明のためのデータとしては不十分である可能性が高いため、この分析を29年度請求額と併せて外部委託にし、マイクロアレイと共に精度の高いデータを用いたメカニズム解析を行う。
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Research Products
(3 results)