2016 Fiscal Year Research-status Report
卵巣がん細胞由来エクソソームによる新規腹膜播種メカニズム解明と治療法の開発
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16K15704
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
吉川 史隆 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (40224985)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
梶山 広明 名古屋大学, 医学系研究科, 准教授 (00345886)
横井 暁 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, 研究員 (30737135)
柴田 清住 名古屋大学, 医学系研究科, 准教授 (90335026)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 卵巣癌 / 腹膜播種 / エクソソーム / MMP1 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請時に卵巣がん細胞が分泌するエクソソームがマウスの実験系で腹膜転移を促進させることを発見し、さらに、エクソソームの受け手と考えられる腹膜中皮細胞の形態変化を起こすことを発見していた。さらなる検討の結果、中皮細胞の形態変化はアポトーシスによるものとわかり、同様の現象がマウスの腹膜でも起こることを、マウス腹膜の組織切片を作成することでアポトーシスが起きていることも確認した。これら事象の原因となる遺伝子を特定すべく、種々のエクソソームを投与した中皮細胞からRNAを抽出し、マイクロアレイ解析を行った。結果、ES-2exoを投与した中皮細胞で有意にMMP1遺伝子が上昇していることが分かった。さらにES-2exoにはintactなMMP1遺伝子が内包されていることを発見し、中皮細胞内のMMP1の発現上昇はエクソソームによる直接輸送であることが分かった。さらに、MMP1が受け手の中皮細胞内でタンパク質へ翻訳されることや、MMP1の発現抑制実験、強制発現実験の結果からMMP1遺伝子が中皮細胞のアポトーシスに必要な遺伝子であることを示した。 次に、癌の組織サンプルの遺伝子発現を蓄積しているデータベースを利用して解析した結果、MMP1が卵巣がんにとって重要な予後規定因子であることが分かり、さらに、ステージ1の初期卵巣がん患者においてはMMP1の発現が予後をより精度高く予測することが分かった。卵巣がん患者の腹水中のエクソソームに、MMP1を多く含む、ES-2exoのようなエクソソームが存在するのかを、腹水サンプルを用いて検討した結果、明らかにMMP1遺伝子を多く含むがん患者群が存在することが分かった。さらにそのMMP1遺伝子量は腹水採取前に化学療法を受けると低下する傾向にあった。 以上から、MMP1遺伝子を含有したエクソソームは患者予後を予測するバイオマーカーとして、また将来的な腹膜転移を抑制するような治療標的として、多くの可能性を有していると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
前述の研究内容につき、論文発表まで行えたため、本年度の達成度は十分と考える。当初の平成28年度の研究計画で、腹膜転移を規定するエクソソーム関連分子の同定、臨床サンプルでの検討を予定していたため、同内容を盛り込んだ研究報告を論文発表として行えたことは研究遂行の妥当性を裏付けるものであると考える。引き続き研究を展開する。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定通り、卵巣癌においてエクソソームが癌悪性化に関わることを証明できたが、治療モデルとしての提唱には至っていない。エクソソームに関連した治療法は、その研究の歴史が浅いこともあり、現在のところ存在しない。本研究により悪性化の鍵となるエクソソーム(悪性エクソソーム)を同定したため、同エクソソームを特異的に阻害する治療方針について検討する。低分子化合物ライブラリーを使用しスクリーニングを行い、悪性エクソソームを阻害する分子の同定を試み、同定されればその機能解析、および動物実験での検討を想定している。同時に、別のアプローチとして、エクソソーム特異タンパクの同定を目指す。卵巣癌が放出するエクソソーム特異的な膜タンパクが同定できれば、同分子を標的とした治療モデルが想定できる(Nishida-Aoki N, et al., Molecular Therapy, 2017)。腹水や腫瘍サンプルを用いてプロテオーム解析を用いて、臨床サンプルから、卵巣癌エクソソーム特異抗原の探索を行う。臨床サンプル収集の継続は、他にも、悪性エクソソームのバイオマーカーとしての可能性の検討にも用いる。悪性エクソソームが同定される患者は予後が悪いことが考えられ、より多くのサンプルで検討する予定である。予後の悪い患者に対し適切な治療を提供することは今後切望される個別化医療へ繋がるものと考えられる。
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