2018 Fiscal Year Research-status Report
TOF-MSと電気伝導率に基く新しい硬組織透過性定量測定法の歯科保存領域への展開
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16K15794
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
池田 英治 東京医科歯科大学, 歯学部, 非常勤講師 (20222896)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | TOF-MS / 電気伝導度 / エナメル質 / 象牙質 / 歯髄 / 定量測定 / 物質透過性 |
Outline of Annual Research Achievements |
象牙細管が物質の交通路であることはよく知られているが、健全エナメル質では高い物理的強度を持つため、その物質通過性について、ほとんど着目されてこなかった。我々は歯の外表面に作用させた低分子量溶質がエナメル質/象牙質を容易に通過すること、かつ、小分子量物質が大分子量物質よりも透過性が高いことを定量的計測で明らかにした。さらに、溶液の電位伝導率が溶質濃度と相関性が非常に高い(二次関数)ことを示し、健全エナメル質/象牙質を透過する物質の濃度を計測した。濃度計測が可能になったことにより、上記の二次関数からエナメル質/象牙質透過した物質量を定量的に算出することに成功した。 TOF-MS (Time-of-Flight mass spectrometer: 飛行時間型質量分析計)は粒子の質量分析計の一種で、加速させた荷電粒子(イオンまたは電子)の飛行時間を計測することにより対象の質量を測定する分析計である。今回、TOF-MSで得られた測定質量値と電位伝導率から算出されたエナメル質/象牙質透過物質の質量値間に非常に高い近似性があることを解明した。 この2つの正確な定量解析法から、サンプル歯を得た患者の年齢と透過量への影響が解析できた。ただし、年齢と物質透過量間に正あるいは負のlinearな関係が明らかなわけではなかった。加齢に伴う象牙質の厚みの増加と象牙細管の閉塞は透過性を低下させ、逆に、加齢に伴うであろう微小亀裂のリスク上昇は透過性を増大させると考えている。 また、ホワイト二ングに起因するエナメル質性状の変化が、エナメル質表面のリン酸エッチングに匹敵するレベルで刺激物質透過性を増加させる変化を定量的に計測することはできた。ただし、pHの様々な酸性食品に起因するエナメル質/象牙質透過性変化の評価に関しては、影響因子が多様であることが推測され、この複雑な条件設定に焦点を絞る必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
TOF-MS (Time-of-Flight mass spectrometer: 飛行時間型質量分析計)の測定値と電位伝導率の理論から算出されエナメル質/象牙質透過物質量に高い近似性を明らかにすることができた。物質の歯髄内送達量測定において、対象物質の高濃度化、低分子量化は有効であることを解明した。また、イオン化した物質の場合において、物質送達に有効なduty cycle、電圧、電荷を明らかにできた。 ホワイトニング材のうち市販されている代表的な2製品を健康なエナメル質に作用させて解析した。既にエナメル質再表層を脱灰することが明白なリン酸エッチング同様に、両ホワイトニング材処理とも物質透過性を増すことを明らかにした。経過時間による透過量増加の変化速度、加速度が異なることから、2種類の物質透過性増加への機序すなわちエナメル質への構造変化様式がエッチングとは異なると推測された。ただし、酸性食品摂取時のpHに伴うエナメル質防御能低下様式は複雑で、計測値に影響を及ぼす多数の因子があると推測される。酸性食品摂取に注意喚起を促すには、条件を絞った解析が必要であると考えられる。 TOF-MSと電位伝導率の2つの正確な溶質定量解析法から、サンプルの歯を得た患者の年齢と透過量への影響が解析できた。ただし、年齢と物質透過量間に正あるいは負のlinearな関係が明らかなわけではなかった。加齢に伴う象牙質の厚みの増加と象牙細管の閉塞は透過性を低下させ、逆に、加齢に伴うであろう微小亀裂のリスク上昇は透過性を増大させると推測され、さらなる検証が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
歯科保存学への臨床応用を念頭において、エナメル・象牙質を経由した安全な新しい薬物送達法の薬剤量を定量測定する。 1.薬剤(硬組織誘導因子、抗菌薬、消炎鎮痛薬、局所麻酔薬)の送達量を本研究結果を基にコントロールし、歯髄への刺激物質の到達量を軽減することによって、歯髄保存の可能性を向上させる臨床試験を行う。今後、本定量測定結果を根拠とした臨床応用を見据える。 2.深在性う蝕症例で、我々が象牙質形成能に関与することを世界で初めて証明したβ2アドレナリン受容体拮抗薬(Gu, Ikeda, Suda, J Endodon, 2015)やDSPP、DMP-1等の硬組織誘導タンパクを歯髄内に送達することにより、刺激象牙質添加を促すことで、歯髄痛・歯髄炎緩和、硬組織形成促進に繋がれば、将来的に、深在性う蝕症例で歯髄除去を回避できる可能性が高まり、新たな歯髄保存療法に展開できることが期待される。また、新鮮露出象牙質を介して局所麻酔薬(Ozawa, Ikeda, Suda, Arch. Oral Biol, 2002)送達できるので、今後、エナメル質/象牙質側から歯髄を麻酔できる新送達法の可能性も検証したい。 3.近年、患者の審美的要求から歯のホワイトニングは大いに注目・実践されている。また、酸性食品の繰り返し摂取についても関心が集まっている。両者に関する歯科保存学的懸念は、エナメル質構造変化による防御能の低下であり、知覚過敏症が発症しうることも知られている。こうした歯髄傷害の懸念があるにもかかわらず、刺激物質の透過量増加を明確に定量的に測定した研究はなかった。エナメル質の構造変化前後に刺激物質の透過量を計測できることで、ホワイトニングや酸性食品の負の影響が大きいを明らかにできれば、物質の定量測定に基いた、歯髄刺激という危険性に対する信憑性の高い注意喚起を歯科保存学的立場からできると期待している。
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Causes of Carryover |
昨年、①研究代表者が大学を退職し、東京都の行政官になったことにより、大学での勤務形態が歯学部附属病院の常勤講師から、歯学部歯学科の非常勤講師に変更になった。大学院生らとメールを用いて頻繁に連絡をとっているが、直に実験方法とその結果解析のリアルタイムの指導を行うことに遅延が生じてしまった。②これに加え、昨年一年間に、研究代表者の実母・姉・義父の3人が相次いで亡くなったため、結果として研究遂行に遅れが生じることになった。
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Research Products
(3 results)