2017 Fiscal Year Research-status Report
歯科用スマートセメントの基礎的検討 ―強固な接着と容易な除去の両立を目指して―
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16K15804
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
浜田 賢一 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(歯学系), 教授 (00301317)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 歯科用セメント / グラスアイオノマーセメント / 接着 / 剥離 / イオン液体 / スマート材料 / 電気伝導性 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年の歯科用セメントの目覚ましい進歩の結果,歯質欠損部の修復物と歯質の結合は強固になり,予期せぬ脱落のリスクは大きく減少した。また,歯列矯正においてブラケットと歯面の接着力が向上し,より大きな矯正力の付与が可能となった。その他にも,歯質と材料,あるいは材料と材料の接着が向上し,脱離までの寿命が伸びたケースは多い。一方,結合箇所を分離する必要に迫られた場合に分離が困難になっているのも事実である。例えば,修復部で根尖病巣が再発し修復物の除去に迫られた場合,結合が強固であるために強い力や振動を加える必要がある。その結果,患者に不快感を与えるだけでなく,歯質にダメージを与えることすらある。しかし,強固な接着と容易な除去,という相反する性質を両立するのは容易ではない。 本研究では,使用時には強固な接着力を発揮し,除去したい時には接着力をオンデマンドで低下させ,容易な除去を可能とする歯科用スマートセメントの開発を目指している。昨年度までに,歯科用グラスアイオノマーセメント(GIC)にイオン液体を含有させることで,通電によって接着力を有意に低下させることを見出した。 平成29年度はイオン液体の含有率とセメントの接着特性との相関を調べた。その結果,元のGICと同程度の接着力を示すとともに,通電によって接着力を有意に低下させることが可能であるイオン液体の含有率の範囲内を明らかにすることができた。 イオン液体の種類を変えて試作したセメントは,電気伝導性や接着力の低下の幅に差異はあったが,通電により接着力を低下可能という性質には変わりがなく,イオン液体の種類を問わない可能性が高いと考えられた。現在量産されているイオン液体で経口毒性が否定されているものはほとんどないが,今後,安全なイオン液体が開発された場合,どのような種類であっても,同様の性能を発揮する可能性が高いと期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の開発目標である歯科用スマートセメントには,十分な接着力と,必要に応じた接着力の低下の両立が求められる。本研究では,平成28年度に通電により接着力の低下が可能であることを,平成29年度にイオン液体の含有率最適化により十分な接着力を示すことを,それぞれ確認しており,本研究の材料設計が有効であることが証明された。含有率を大きくすると,セメントのマトリックスゲルにイオン液体が溶解しきれず,液滴として遊離する状態となり,マトリックスの強度を低下させることが原因と考えられた。一方,含有率を小さくすると,セメントの電気伝導率が低下し,効果的な通電が困難となるため,接着力の低下が生じにくいと考えられた。この両者の間に,有効な含有率が必ず存在するかは不明だが,これまでに用いた複数種類の歯科用GICとイオン液体の組み合わせでは,有効な含有率は存在していた。ただし,イオン液体の種類によって電気伝導性が異なり,接着力低下に必要な通電時間が異なることが明らかとなり,より高い電気伝導性を示すイオン液体が望ましいと考えられた。 接着する金属の種類によって接着力の低下量に差異があるかを調べるため,従来の銅に加えてチタン,歯科用銀合金を用いた評価を行った。その結果,通電時に同じ電荷密度を与えても,チタンと銀合金では低下量が小さいことが明らかとなったが,接着力の低下そのものは維持されており,被着金属種を選ばないと考えられた。現時点での接着力低下の機序の仮説は,アノード側の被着金属表面での金属イオンの溶出にともなう金属―セメント界面の破壊である。耐食性の高いチタンと銀合金で接着力低下量が小さいことは,この仮説と矛盾していない。しかし,表面からのイオン溶出が接着力低下の唯一の原因であるかは不明で,さらなる検討が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の試作セメントに対しては,口腔内,すなわち水中でのイオンの溶出と,それにともなう電気伝導性の低下について,数多く質問が寄せられるため,その定量的な評価を行う。これまでの検討で,歯科用GICで接合した試料は,GIC硬化ままでは電気伝導性を示さないが,蒸留水に浸漬すると電気伝導性が発現し,乾燥させると電気伝導性が失われることが明らかとなっている。この電気伝導性の発現と消失がGICへの水の出入りに起因するならば,GICからのイオンの溶出は可能と推定される。ただし,イオン液体を構成する分子性のアニオンとカチオンは,単原子のアニオンやカチオンよりGICマトリックスゲル中での拡散速度が小さいと予想されることから,溶出の定量的な評価を行って,電気伝導性の維持における問題点を明らかにする。 接着力低下の機序の解明ために,イオン液体を用いずにGICに電気伝導性を与え,接着力の低下が生じるか評価する。GICではフィラーとしてガラス粉末を用いるが,この粉末を電気伝導性粉末に置換することで電気伝導性を与える。粉末の材料としては,金属,電気伝導性酸化物セラミックス,電気伝導性ガラスを候補とする。ただし,GICはマトリックスゲルと粉末との酸-塩基反応で硬化するため,粉末の材料によっては硬化が不十分で接着力の評価に至らない可能性がある。接着力評価に耐える試作セメントが得られた場合は,通電によって接着力に変化が生じるか検証するとともに,通電にともなう電気化学変化を調べ,その相関を検討する。その結果,イオン液体によって電気伝導性を付与したGICとの差異が見いだせれば,接着力低下機序の解明の一助となる。
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Causes of Carryover |
本研究に対して受領した民間助成団体からの助成金の使用期限が平成30年3月末だったことから,そちらを優先して使用したため,次年度使用額が生じた。この次年度使用額については,試作セメント作製の原材料の購入量の拡大に充当する予定である。
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Research Products
(4 results)