2017 Fiscal Year Research-status Report
自己加重経験尤度に基づく無限分散確率過程に対する非母数的・頑健な推測手法の構築
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16K16022
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
明石 郁哉 早稲田大学, 理工学術院, 次席研究院 (90773268)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 時系列解析 / 統計的仮説検定 / 一般化経験尤度 / 自己基準化法 / 自己加重法 / 無限分散時系列モデル / 長期記憶時系列モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、経済時系列、生体工学データ解析などの分野で、裾の重い分布を持つデータがしばしば観測される。このようなデータに対して、従来の有限分散を仮定したモデルを適用した場合、重い裾分布の影響を受けることで古典的な統計量の振る舞いは解析困難になることが知られている。そこで本研究では、モデルの持つ無限分散性に影響を受けない、頑健な数理統計手法の構成を行なう。特に攪乱項の分布を特定のクラスに限定せず、近似尤度を計算する手法である経験尤度を用いて非母数的な尤度を構成した。本年度はAkashi (2017)が導出した一般化経験尤度法(GEL)に基づく研究を拡張し、Akashi, Bai and Taqqu (2018, 後述)、Akashi, Dette and Liu (2018, 後述)として投稿した。前者は2017年度に国際誌に採録され、後者も2018年度の採録が決定している。また統計的推測論における重要なテーマのひとつとして、モデル診断が挙げられる。従来のモデル診断の枠組みでは、特定の(ARMAモデルなどの)時系列モデルを仮定し、その誤差項の相関の有無をPortmanteau検定統計量によりパラメトリックに検定するという限定的な方法にとどまっていた。一方、Akashi, Odashima, Taniguchi and Monti (2018, 後述)ではPortmanteau検定統計量を含む広範な尤度比型の統計量の漸近分布を保障するための必要十分条件を導出し、モデル診断に対する新奇的・統一的な枠組みを提案した。これらの研究成果は、日本数学会秋季総合分科会における特別講演にて発信を行った。また台湾(5月)、香港(6月)、アメリカ(2月)での招待講演では国際シンポジウムにて国内外の研究者に対して本研究で得られた成果を広く発信した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2017年度から継続していた、Boston大学Murad Taqqu氏、Georgia大学Shuyang Bai氏との共同研究では自己基準化法を用いた統計量の構成を行い、時系列回帰モデルに対する頑健な統計手法の構成を行った。現実のデータを扱う際に問題になる点として、無限分散性に加えて長期記憶性が挙げられ、無限分散性の場合と同様に、統計量の収束の速さの指標である収束オーダーや漸近分布が煩雑なものとなることが知られている。そこでAkashi, Bai and Taqqu (2017, Journal of Time Series Analysis)では自己基準化と呼ばれる手法を用いて、未知の局外母数(誤差分布の裾指数、長期記憶性の指標であるHurst指数)に依存しない頑健な統計手法を構成し、長期記憶性・無限分散性が混在した状況下でも使用可能な推定法を構成した。 またAkashi, Odashima, Taniguchi and Monti (2018, Sankhya)においては、モデル診断の手法に対して統一的な尤度比型統計量を構成し、収束に関する条件を導出した。前述の通り、Portmanteau検定に代表される従来のモデル診断では、限られたモデルを仮定してのものであった。一方で本研究では、時系列モデルも含む一般的なクラスの確率分布族に対して、Whittle尤度比型、Portmanteau型も含む一般的な検定統計量を構成し、漸近分布が通常のカイ二乗分布になるための必要十分条件をFisher情報行列の部分行列を用いて明示的に導出し、時系列モデルの系列相関の検定や、回帰モデルの変数選択問題などに応用した。以上の点より、本研究は当初の計画以上に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はこれまでの研究進展を踏まえ、主に下記の研究テーマ(A)、(B)を推進する計画である。 (A)GELのクラスの中での最適手法を理論的・数値的に解析する。無限分散性を制御するためにAkashi (2017, Statistical Inference for Stochastic Processes)は自己加重法をGEL統計量と組み合わせ、頑健な統計量(SW-GEL)を構成したが、自己加重に用いる加重関数はそれ自体が確率変数の構造を持つため、一般的なモデルに対しては漸近展開などによる理論的評価が困難である。この点は本年度中の考察より明らかになっており、結果は日本数学会年会(2018年3月、東京大学)で報告済みである。そのため本年度は最適な加重関数を選択するべく、(1)特定のモデル・加重関数に限定した最適化手法、(2)データ駆動型の非母数的な加重関数の構成法、の2点を推進する計画である。また当該結果を周波数領域でのGELに拡張することも試みる。特に(1)の結果を用いて一般的なモデルに対する最適加重の選択へのブレークスルーを計る。 (B)近年しばしば問題となるデータの高次元化について、高次元無限分散モデルの頑健な検定手法を構成することを試みる。従来の高次元での統計量の漸近分布を導出する際は、ほとんど正規性を仮定するに等しいモーメント条件や、次元の増加が標本数の増加に比べて十分に遅いといった限定的な条件下で行われてきた。そこで本研究では高次元時系列モデルに対するGEL法を構成し、さらに自己基準化・加重法、高次元での正則化手法を用いて、広範な時系列モデルの推測手法を構成し、その最適性を導出することを試みる。
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Causes of Carryover |
繰越が生じた理由として、本年度の海外出張・国際共同研究はほとんどがシンポジウムでの招待講演を伴うものだったため、海外旅費支出が当初の予定を下回ったことが挙げられる。2017年度の交付申請をするにあたり、2017年2月時点では300千円を海外旅費として請求していたが、その後2018年2月のアメリカ招待講演が決定し、旅費の全額補助を受けることとなった。それに伴い、当初は申請者の本研究費で行う計画であった海外出張がその出張に置き換わったため、繰越額が生じた。 2018年度への繰越額の使用計画として、当該年度に購入予定だった数値解析用のワークステーションのグレードを上げる資金に当てることを計画している。これは【今後の研究の推進方策】(B)において、高次元時系列データを扱う際の膨大な計算コストを伴う数値実験を行うためには必要不可欠である。また、上記テーマは近年ゲノム解析などに代表される多分野などでの応用・発展が著しい。そのため、当初の予定に追加して海外出張を行い、当該研究分野の最新の動向を探り、多方面の研究者との連携を図る。
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Research Products
(16 results)