2016 Fiscal Year Research-status Report
大規模化する金融リスクへの確率・統計的方法―多次元GARCHモデルの新展開
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16K16023
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
松井 宗也 南山大学, 経営学部, 准教授 (70449031)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 確率的漸化式 / 多次元GARCHモデル / 定常過程 / 正則変動 / 裾確率 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度実施計画で記述したように、結果が出ている研究に関しては、既に結果を論文にまとめ海外の雑誌に投稿した。それは2次元GARCH(1,1)モデルの各次元定常系列で裾の厚さが異なる条件に関するのである。この論文に関しては一度、査読者のレビューが戻ってきており、結果は「棄却するが再投稿を許す」ものであった。そこでレビューにもとづき論文を大幅に改善し再投稿した。現在は再びレビューを待っている段階である。当該論文はこの研究計画の基盤となるアイデアがまとめてあり、何とか雑誌に掲載したいと考えている。なお、この研究は確率的漸化式(Stochastic Recurrence Equations、以下SREと略す)の専門家(ポーランド)との共同研究である。 2次元以上の確率的漸化式(SRE)に関しては、まず漸化式の係数に三角行列を仮定した。この仮定のもとで解となる系列が定常となるための新しい条件を導出した。それは既存の定常解となる条件より緩い条件であり、かつ使い易いものである。その上で各次元で裾の厚さが異なる条件を導出した。それは2次元の結果の拡張である。また次元数が大きいと各次元の裾の厚さのパラメータを記述するのが非常に複雑となることが分かった。そのため簡潔でわかり易い記述方法も合わせて考えた。現在はこれらの結果を論文としてまとめている。この多次元SREの結果を多次元のCCC-GARCHモデルに応用する見通しも立った。多次元の研究の特筆すべき点は、当初は3次元のみを考えていた拡張が一般のn次元の場合へ拡張できたことである。 これらの実績とは別に、我々の考えている研究は他のGARCHモデルへも応用が可能なことが分かった。これは関連する研究者(デンマーク)を積極的に訪問し意見を伺った結果である。今後はこの応用研究も研究計画に加えたいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの研究状況はおおむね順調である。やや遅れている部分もあるが、当初の計画以上に進展している部分もある。以下ではその状況を【研究実績の概要】を踏まえ説明する。 既に述べたように、2次元GARCH(1,1)モデルに関しては完成した論文を雑誌へ掲載することが目的となる。海外の有名な雑誌に掲載し多くの研究者の注目を集めたい。何故なら興味深い研究成果でありこの分野の新たなブレイクスルーになると期待できるからである。しかし、査読が長期間にわたりなおかつ一度リジェクトされているため、論文掲載までの期間が当初予想していたより長引いている。 多次元の確率的漸化式(以下SREと略す)は、当初は3次元でかつ係数が三角行列のみの拡張を考えていた。つまり最も基本的な多次元SREへの拡張である。それでも各次元での漸近的な裾確率を決定するには多くの「場合分け」が必要となる。そして研究結果は非常に複雑なものとなることが予想された。ところがこの「場合分け」を数学的に簡潔に述べる方法を発見し、そのため2次元の結果を一般のn次元まで拡張できた。これは大きな進展である。このSREの結果は多次元GARCH(1,1)モデルに直接に応用でき、n次元GARCH(1,1)モデルの裾確率も、その結果から比較的簡単に求めることができる。 さらに【研究実績の概要】で述べたように、我々の考えている研究は他のGARCHモデルにも応用可能であるとわかった。このことは当初は想定していなかったが、重要な応用研究である。そこで、既定の研究計画が順調に進展しかつ余裕がある場合に、この応用研究を研究計画に加えたい。難しい場合には他の研究プロジェクトで改めて遂行したいと考えている。以上で遅れている部分と当初計画以上に進んでいる部分の両方を説明した。
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Strategy for Future Research Activity |
2次元GARCH(1,1)モデルに関しては、有名雑誌に掲載されるよう鋭意努力する。さらに多次元の確率的漸化式(SRE)に関しては、得られた結果(【研究実績の概要】で説明済み)をなるべく早く論文としてまとめ雑誌に投稿する。 そして当初の研究実施計画を予定通り遂行する。それは以下の2つである。 (1)3次元GARCH(1,1)モデルに関して裾確率をExtremogramという指標で特徴づける。Extremogramは多次元定常時系列データにおける極値同士の依存関係を時間と次元の2つの軸で捉える新しい指標である。裾の厚さが各次元(3つの次元)で等しい場合はこの指標で依存関係を記述できる。裾の厚さが異なる場合は、依存関係を捉える一般的な指標は無い。そこで、変数変換を用いて新しく依存関係を捉えられないか考える。応用の上で意味のある指標の定義をめざしたい。 (2)確率的漸化式(Stochastic Recurrence Equations、以下SREと略す)の係数行列がブロック三角行列の場合を考える。現在までで得られている結果;「係数行列のすべての要素が正である場合」と「係数行列が三角行列でありかつ非ゼロ要素が全て正である場合」を対角ブロック毎に構成されるSREに応用する。すると、各対角ブロックごとに裾の厚さを表すパラメータ(極値パラメータ)がそのブロック内の全ての次元で特徴づけられる。後は各対角ブロックの最大の極値パラメータの比較から、一般のn次元全て(非対角ブロックを含む)の極値パラメータが決定される。 いずれの研究も海外(主にポーランドとデンマーク)の研究者たちとの共同研究である。そのため時間を見つけて積極的に在学研究を行う方向で研究を遂行していきたい。また既に研究成果が得られているものに関しては、海外の研究集会で積極的に発表したい。
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