2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K16073
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
坂野 逸紀 首都大学東京, 人間健康科学研究科, 日本学術振興会特別研究員(PD) (00707440)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 実験心理学 / 認知科学 / 統計的要約 / 予測的知覚 / 身体運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
【目的】急に眼前の物体が動き出したとき、我々はそれに対して無意識的・自動的に注意を向け、何が起こったのかを分析しようとする。視覚系は環境の見えの時間的差異を検出する仕組みを備え、環境の変化という事態に対処していると考えられる。一方、見えの変化は自己運動によっても起こる。自分が動いた結果としての見えの変化は環境そのものの変化とは区別され、分析対象から外さねばならない。視覚系は身体運動から視覚像の変化を予測し、その予測に合致する見えに対しては不必要な分析を行わないようにしていると予想される。しかしながら、この予想を体系的に確かめた研究はこれまで存在しない。申請者は、視環境の持つ「統計構造」が、視覚系が予測すべき情報であると考える。本計画ではこれが自己運動においてどのように予測されるのかを検証する。 【具体的内容】視覚統計構造が自己運動に伴いどのように予測されるのかを直接測定する前に、そもそもヒトが予測すべき視覚統計構造とはどのようなものかを特定しておく必要がある。そこでより基礎的な観点から、ヒトの視知覚において処理されうる統計構造の性質を明らかにすることに注力した。報告者のこれまでの研究において、視覚特徴間の共変関係をヒトが瞬間的な視覚呈示から把握できる可能性が示唆されていた。ここではその知見が妥当と言えるのか、より踏み込んだ種々の検討を行った。一例として、共変関係の知覚が注意の方略に依存するものではないことを示唆する結果を得た。これは、視覚特徴間の共変関係が選択的注意という処理資源を必ずしも要求しないものと解釈できる。また同時に、共変関係が自己運動下において予測されうる統計構造として妥当な候補であることも意味している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
目的を検証するにあたり、様々な自己運動の仕方が考えられる。しかしながら、視覚呈示装置であるヘッドマウントディスプレイの導入を行いその挙動を確かめてみたところ、当初予定していた「走る」「自転車」を漕ぐなどの頭部以外を動かすダイナミックな動作と視覚統計構造の操作をうまく連動させることが難しいことが分かってきた。 一方、瞬間的に知覚できる統計構造そのものの理解については検討が進み、新しい知見が得られた。呈示する物体にサイズ・方位・位置の3種類の特徴をもたせ、それらから考えうる3種類の組み合わせ(サイズ-方位、方位-位置、サイズ-位置)の画面上での共変関係、すなわち相関を操作した。予備的検討で、サイズ-方位の共変関係に対する弁別性はその他の組み合わせ(サイズ-位置、方位-位置)に比べ著しく低いという、位置特異的性質を持つことが分かっていた。今回、この性質が選択的注意の資源制約によるものかを検討した。円を同時に呈示した場合と1つずつ呈示した場合を比較したところ、後者であっても位置特異的性質は維持された。結果は、共変知覚の位置特異的性質が個々の刺激に注意を向けられないために起こるわけではないことを示唆する。 得られた知見は、共変関係を知覚する機構の制約を考える上で重要なデータである。また同時に、ある種の共変関係が、自己運動下において自動的に処理されうるものであることを意味している。自己運動に伴う視覚変化の予測は自動的でなければならないから、特徴間の共変関係はその予測機構に関与する情報の候補として妥当であるとみなせる。当初の方向性とは異なるものの確実な進展が見られたことから、研究はおおむね順調に進展したものと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
自己運動としてダイナミックな運動を用いることは難しいことが予想されたため、首振り運動など頭部のみを動かす比較的単純な動作において統計構造の予測が行われるのかを確かめる予定である。実験パラダイムは当初の予定通り、順応パラダイムを利用する。線分の平均方位を例として説明すると、ある線群の平均方位の判断は、その直前に呈示された線群(順応刺激)の平均方位に影響される。順応刺激が平均して時計回りの方位を有していた場合、後に現れる線群(テスト刺激)の平均方位は実際より反時計回りと判断されやすい。この効果量が、視覚がある範囲の統計構造の移動を予測しているかの指標となる。左から右へ首を振ったとすると、当初視界の右側にあった網膜像は左にシフトする。一般に順応効果は刺激が存在していた「位置」で最大の効果を示すが、もし統計構造が身体運動を元に予測されるとすると、首振りと共に順応効果が最大となる場所は移動し、網膜上の位置としては左にシフトすると考えられる。本研究では、正立下での首振りという日常的動作に加え、股覗き姿勢での首振りという非日常的動作も対象とし、統計構造の予測が動作の日常性にどの程度依存するのかについても評価する予定である。 また、上記の検討と並行して視覚特徴間に潜む共変関係の順応効果を検討する。統計構造の予測性が順応効果をもって評価される以上、そもそも共変関係に対して基本的な順応効果が生じるのかを確かめておく必要がある。
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Causes of Carryover |
予定していた研究計画からの変更の結果、一人あたりの実施時間および単位時間あたりの謝金支給額が減少した。そのため、当初の予定よりは謝金額が少なくなり、繰越が生じた。次年度使用額として繰り越すにあたり、実験協力者への謝金にあてられる予定である。
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Research Products
(3 results)