2016 Fiscal Year Research-status Report
オンラインメディアを活用した人間行動研究を行う企業と研究者の社会責任に関する研究
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16K16169
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
浅井 亮子 明治大学, 研究・知財戦略機構, 共同研究員 (40461743)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 情報倫理 / 研究倫理 / 社会責任 / ステークホルダー / 感情 / ソーシャルロボット / プライバシー |
Outline of Annual Research Achievements |
当該研究課題の目的であるオンラインメディアやソーシャルネットワークを利用した研究における倫理を企業、ユーザそして研究者の視点から考察し、情報倫理に配慮し、複雑化する情報技術で繋がった社会での研究活動に即した研究に関わる倫理を検討し提言することを目指している。そこで初年度は当該研究計画に則り、当該研究課題を進める上で基礎となるこれまでの先行研究の精査に重点をおき活動を進めた。すなわち、主としてこれまでに発表されてきた科学的研究と倫理あるいは社会との関わりに関する主要な先行研究をもとにそれらの文献研究や事例研究を精査精読するとともに、ここ数年の間に表出した科学研究と倫理とに関わり実際に起きたケースについても日本にとどまらずにアメリカやヨーロッパの事例についても整理を進めてきた。 またあわせて当該研究課題に関してテクノロジーあるいはエンジニアリングの領域で研究をする若手研究者や技術者たちともディスカッションを進め、アカデミックな研究活動においては、研究を進める研究者だけでなく、研究者や特定の研究をサポートする数多くのステークホルダーたちが存在し、研究者の純粋な学問的関心や興味だけでは研究活動が難しい状況をナラティブとして記録してきた。 具体的な成果としては、プライバシー概念を再考する中で個人識別番号によっても変化しうるプライバシーのあり方を考察した学会発表「無名社会」、急速に開発が進むAIやロボット技術とそれに社会性を付加する研究者や産業界、そしてそれを実際に日常生活に活用するユーザとの間の倫理的な課題について検討した論文「テクノペアレンティング」、また社会性を有するとされるテクノロジーの社会性の所以を検討した"Robots as companions in feelings and discussions"を国際会議において発表するなど研究成果の公表にも注力した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該研究課題の初年度は、基礎的な研究として先行研究の精査と整理、さらに現代のアカデミックな研究がおかれている社会状況や環境を研究者、とりわけ若手の研究者に対してインタビューやディスカッションを行い、今後の研究活動に必要となるナラティブの収集を行なってきた。先行研究の整理の結果として、研究室から生み出されてくる研究成果の社会性や社会的な価値をいかように考察するかについて有用な理論(例えば Actors Network TheoryやTechnoethicsなど)を選び、研究活動における倫理が問題として取り上げられた事例に対してどのように適用できるか、あるいはどのような議論が導き出せるかについて考察を進めている。またプライバシーやセキュリティといった概念を現在導入が進む個人識別番号との関連も含めながらそれら概念の再考を行なってきた。 さらに研究プロジェクトとして生み出された成果が有する社会性と、研究助成によって助成元へと引き渡される利益性など、研究開発活動が進めば進むほど複雑化する研究活動や研究者の社会中立性について倫理的なジレンマが時として発生している現状をナラティブから明らかにするための若手研究者を中心とした研究者に対するインタビューも行ってきたが、初年度に引き続き研究者に対するインタビューさらには研究助成を行う機関や企業に対しても同様のインタビューを行えるように準備を進めている。 現在までの進捗状況としてはおおむね研究計画に沿って研究活動に取り組んでおり、初年度であり基礎的な研究をもとにこれまでで考察した内容に関しては、学術論文や国際会議での発表など研究成果の発表も行うことができている。また初年度中には次年度に開催される国際会議への出席のためのアブストラクトの提出などもすでに行っており、さらなる研究成果の創出とその公表を目指すものである。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画にしたがい初年度に精査精読、また整理した先行研究から導き出した現状を分析するために有用な視角や議論を精緻化するとともに、それを現在日本にとどまらず世界の各地で起きている研究と倫理との問題に応用できるようにさらに発展させることを目指す。またそのためには、ここ数年間の間に数多くの研究における倫理の再考を促すような事例が起きている。こうした事例は枚挙にいとまがないことから、研究領域をある程度分類し、とりわけ技術革新のスピードが早く産業界からの研究支援も豊富な情報技術やコンピュータサイエンスに関わる分野を中心として事例についての情報を収集している。ただし、一般的な研究と倫理との問題について触れる際には、メディカルエシックスやバイオエシックスにおける議論や事例なども引用し、当該研究課題の実用的な側面を充実させるような研究活動を展開する予定である。 また事例を集めるだけでなく、実際に研究者に対するインタビューを行い、現実の研究過程で直面する倫理的なジレンマや課題についてもさらに多くのナラティブの収集を継続して行う。さらに研究を助成する側の企業や機関の担当者などにもアプローチし、研究者とのコラボレーションの中で生じる効果や課題などについても明らかにしていく予定である。 一定数のナラティブを収集した上で、研究において直面する倫理的な課題やそこでとられた解決方法の現状を知るために実際に研究者として研究に携わる人々にアンケート調査を行えるように準備を進める。 すでに初年度中に研究発表の申し込みを済ませた分も含めて、継続的に学術論文や国際会議・国内学会で研究成果の公表ができるように論文の作成や研究会議への申し込みをこれまでと同様に積極的に行う計画である。
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Causes of Carryover |
研究活動の主軸を先行研究に基づく理論研究に置き、当初計画していた国際会議や国内学会への出張を近距離の出張としたこと、また論文の作成に重点を置いたことから旅費の支出が抑えられたことが挙げられる。さらに、当初計画してコンピュータやプリンターの購入もそれまでに使用していたものを引き続き使用したことも支出の抑制につながっている。 インタビューに協力してもらったインタビュアーたちに支払う謝金についても、研究者に対するインタビューを中心に行ったため、インタビュアーの依頼がスムーズに行われ、また研究と倫理という課題における研究活動であることも考慮され謝金が発生しなかったことも支出が予想よりも抑えられた一因として挙げられる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
初年度に支出が抑えられた分、次年度以降は調査の分析のために依頼する予定であるアシスタントへの支払いや、アンケートの実施において必要となるプラットフォームの設置などに支出を予定している。またアンケートへの回答者を確保するため、アンケート調査を支援する企業に依頼することも検討しており、そのための支出も考慮している。あわせて、調査結果の分析の際に新たなコンピュータなどの備品が必要となることが予想される。そのため、初年度購入予定であったコンピュータやソフトウェアをアンケート調査の実施に合わせて準備するための支出をする予定している。 具体的な研究成果がではじめていることもあり、研究成果をより多く公表するための研究会、ワークショップや国際会議への参加を予定しており、出張旅費としても初年度より多い支出を予定している。
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Research Products
(4 results)