2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K16170
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
藤原 整 早稲田大学, 社会科学総合学術院(先端社会科学研究所), その他(招聘研究員) (60755750)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ブータン / 情報社会 / エスノグラフィ / 地域研究 / 社会情報学 / 情報人類学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ブータン王国を対象地域として、フィールドワークを通じたエスノグラフィを著すことによって、ブータン独自の情報社会像を描き出すことを目的としている。ブータンは、農耕牧畜社会から工業化を経ずに情報社会へと至った、世界的にも特異なケースの一つであり、その実態を人類学的な視点から解明する調査には大きな意義があると考えられる。特に、途上国と呼ばれる国・地域においては、情報通信分野に関して、それを用いた経済開発に目が向けられ、地域住民の社会生活の変化という視点からは十分に論じられてこなかった。 研究二年目となる平成29年度は、平成28年度に構築した調査体制に基づいて、本調査を実施した。具体的には、調査のための現地受入研究機関であるブータン王立大学(Royal University of Bhutan)傘下のシェラブツェカレッジ(Sherubtse College)、および、ジグメナムゲル工科カレッジ(Jigme Namgyel Engineering College)の協力の下、2017年5月から6月にかけて、およそ2週間現地に滞在し、参与観察を行った。ただし、計画当初は、ブータン国内の複数地域において、一般家庭に滞在して参与観察を行う予定であったが、事情により、各地域出身の学生のみを対象とした限定的な調査となった。その原因については、【現在までの進捗状況】に詳しく後述する。 また、当該年度中に、日本ブータン学会大会(2017年5月)、日本南アジア学会研究集会(2017年7月)、および、社会情報学会大会(2017年9月)において、本研究に関連した中間報告を実施した。特に、社会情報学会大会においては、「ブータンにおける若者の情報環境: ブータン王立大学生によるコミュニケーション実態」と題して、先に行ったブータン人学生を対象とするエスノグラフィ調査の暫定的な考察を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
残念ながら、本調査は当初計画に比べて遅れていると言わざるを得ない。その理由は、大きく下記二点である。 まず一点目は、ブータン入国管理局(Department of Immigration, Ministry of Home and Cultural Affairs)による審査が厳しくなり、研究調査を目的としたビザ取得が極めて困難になったことである。研究代表者は、過去数年に渡って、ブータン王立大学との間で信頼関係を構築し、結果として、国内の各カレッジからの招待を受けて調査を実施する許可を得てきていたが、当該年度より、ビザ取得自体は可能であるものの、滞在中の調査活動に著しく制約が加わることとなった。具体的には、国内における一般家庭への滞在が不可能になり、大学のゲストハウスを拠点とした活動に制限された。これにより、ブータン国内の複数地域において一般家庭に滞在して参与観察するという当初計画の遂行が困難になり、計画変更を余儀なくされた。 二点目は、平成29年度後期(2017年9月-2018年3月)に、国際協力機構(JICA)を通じて、ブータン王国の「全国総合開発計画2030策定プロジェクト(The Project for Formulation of Comprehensive Development Plan for 2030)」への参画を要請され、現地調査を行うことになったためである。同プロジェクトは、約半年の期間中、1ヶ月間を2回、計2ヶ月間の現地滞在が必須であり、プロジェクト実施中は終日業務に拘束されるため、並行して本調査を行うことが不可能であった。また、現地滞在期間の他にも、レポート執筆業務が課せられ、実質的にこの半年の間は調査がストップすることになった。ただし、同プロジェクトへの参画自体は、今後のブータン国内での調査研究のための関係構築という観点では、極めて有益であった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は計画最終年度となるため、ここまでの遅れを取り戻し、現地での調査を推進していく必要がある。当初計画では、ブータン国内の複数地域において、全世代的な調査を行うことを予定していたが、現時点では、限定的な地域の、しかも学生という特定世代を対象とした調査のみ実施した状況である。 しかしながら、タイミングの悪いことに、2018年はほぼ一年間に渡り、ブータンの国政選挙期間と重なる。2018年4月に上院(National Council)選挙が実施され、2018年8月から10月ごろにかけて下院(National Assembly)選挙が実施される予定である。この選挙期間中は、入国管理局の審査がひときわ厳しくなることが通達されており、研究調査を目的としたビザ取得については、ブータン側からすでに難色が示されている。 この状況を鑑みて、可能な限りの解決策としては、すでに構築済みのブータン人教員とのネットワークを駆使して、調査協力を要請し、フィールドノートを収集することが最善と考えられる。平成29年度時点で、シェラブツェカレッジ、および、ジグメナムゲル工科カレッジ、それぞれの教員から協力の約束を取り付けており、遂行には支障は無いものと考えている。具体的には、各教員が担当する学生に対し、彼らが長期休暇期間に出身地域へ帰省するタイミングで調査への協力を依頼し、その成果物を収集してもらう、という手筈となる。このようにして集めた調査結果の信頼性については、渡航可能なタイミングですみやかに現地を訪問し、自らの手で追調査を行うことで担保したいと考えている。 最終的には、2019年2月、または、3月に、ブータン王立大学において、研究成果の報告会を実施し、調査に協力してくれた教員・学生にも研究の実績に加えてもらうことで、その恩義に報いたいと考えている。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、【現在までの進捗状況】に記した通り、本研究が遅れていることにある。一つは、ブータン入国管理局の審査が厳しくなったことにより、当初計画していた長期滞在による研究調査が不可能になったため、海外旅費が大幅に減少した。もう一つは、平成29年度後期に、ブータン王国の「全国総合開発計画2030策定プロジェクト」に参画したため、当該期間中に、本調査を目的とする渡航が困難であった。結果として、平成29年度は、現地渡航が一回に止まった。 平成30年度は、請求予定額700,000円に、次年度使用額589,550円を加えて、1,289,550円が直接経費として計上される。その使用計画は以下の通りである。 まず、物品費について、主に消耗品費として30,000円を計上する。旅費に関しては、当初、二回の現地渡航を予定していたが、これを三回に変更し、海外旅費を900,000円に増額する。加えて、国内学会における中間報告も積極的に行う予定であり、そのための国内旅費100,000円を計上する。旅費の総額としては、1,000,000円となる。さらに、現地の教員・学生に研究協力を要請するため、謝金として計150,000円を計上する。そして、三回目の渡航時には、本研究の報告会を兼ねた国際セミナーを開催したいと考えており、会議費・印刷費として、残額となる109,550円を計上する。
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