2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K16186
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
山下 陽介 国立研究開発法人海洋研究開発機構, ビッグデータ活用予測プロジェクトチーム, 特任研究員 (40637766)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ヨウ素触媒サイクル / 化学気候モデル / オゾン |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの知見では、ヨウ素触媒サイクルによる下部成層圏のオゾン消失は無視できるほど小さいとされてきた。しかし近年の研究で、ヨウ素触媒サイクルによるオゾン消失が、熱帯域の対流圏界面付近の下部成層圏では無視できないという推定結果が提示された。 大気中のヨウ素化合物は海洋から放出される自然起源のもので、光化学反応や氷雲・海塩エアロゾル上における不均一反応により変化し、大気中の循環によって成層圏にまで到達してヨウ素ラジカルを供給し、ヨウ素触媒サイクルによりオゾン消失に働くと考えられている。 本研究では、全球化学気候モデルに対してヨウ素化合物の放出・輸送プロセスやヨウ素化合物の反応式などを導入し、成層圏・対流圏におけるヨウ素の化学と輸送の役割を調べることを目的としている。化学気候モデルは大きな計算資源を必要とするため、あらかじめヨウ素触媒サイクルに関連する主要な反応を特定し、それらの反応に絞って導入する必要がある。そのため今年度はまず、化学種濃度の時間発展を計算するboxモデルを用いてヨウ素触媒サイクルに関連する主要な反応式の特定を行った。一定のヨウ素ラジカル濃度を与えヨウ素ラジカルとオゾンとの反応を調べると、観測されている全無機ヨウ素濃度に相当する1pptv程度の入力でオゾン消失量が過大評価されることが分かった。そこで、ヨウ素ラジカルとリザーバーとの相互変換反応や、ヨウ化メチルからヨウ素ラジカルを生成する反応等を組み込むことで現実的な消失量を再現した。その成果は、2016年10月に札幌で行われた大気化学討論会で発表した。 さらに、boxモデルで特定した主要な反応によるオゾン消失や光解離反応速度定数計算などを化学気候モデルに組み込む作業を行い、オゾン量などがヨウ素触媒サイクルの有無でどのように変化するのかを調べた。また化学気候モデルの相互比較に関し、共著で論文発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、boxモデルを用いて大気中のヨウ素に関係する主要な気相反応を特定し、それを基に全球化学気候モデルに気相におけるヨウ素化合物の化学反応を取り込むことを計画していた。boxモデルによる反応式の推定で、ヨウ素ラジカルによるオゾン消失反応に加え、ヨウ素ラジカルとリザーバーとの相互変換反応や、ヨウ化メチルからヨウ素ラジカルを生成する反応等を組み込むことで現実的な消失量を再現できることが分かった。そこで、これらの反応式を全球化学気候モデルに導入した。全球化学気候モデルでは化学モデルで360sの時間ステップを用いており、計算上の制約からboxモデルの時間ステップである10μsのように短く取ることができないため、導入の際には、あらかじめboxモデルで時間ステップを複数設定した実験を行い、オゾン消失の律速となるような反応や、ヨウ素ラジカルを構成する化学種同士の比などの近似計算の妥当性を調べている。boxモデルによる検証の結果、導入した近似計算では60sの時間ステップが妥当であることが分かったため、全球化学気候モデルの化学モデルの時間ステップを60sに変更した。 ヨウ素化合物は光解離反応も起こすことが知られており、光解離反応速度の推定には吸収断面積データと放射フラックスが必要である。ヨウ素化合物の吸収断面積データは実験室での推定値が公開されており、放射フラックスは化学気候モデルの放射伝達モデルを利用して推定した。 これらの作業により、化学気候モデルに気相におけるヨウ素化合物の化学反応を取り込んだ。ヨウ素化合物の化学反応の有無で2種類のモデルができたので、それぞれのモデルで2000年条件に設定した気候固定実験を行った。結果を比較すると、赤道付近で1年を通してヨウ素化合物の化学反応によるオゾン量の減少が確認された。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、全球化学気候モデルに気相におけるヨウ素化合物の化学反応を取り込んだ。その際に、ヨウ素化合物の輸送は、全て気体の有機ヨウ素の輸送によって行われると仮定しており、氷雲・海塩エアロゾル上における不均一反応、海塩エアロゾルに伴う輸送や降水に伴う沈着過程は考慮されていない。この化学気候モデルは、海塩エアロゾルなど大気エアロゾルの放出・輸送や、エアロゾルの沈着過程を計算するエアロゾル輸送モデルを含んでおり、今後、エアロゾル輸送モデルにヨウ素化合物の放出・沈着・輸送等の過程を結合させる。また、このモデルは氷雲粒子の粒径分布などの計算を行う雲微物理モデルも含んでおり、氷雲粒子の分布を得ることもできる。今後、エアロゾル輸送モデルによって得られた海塩粒子の分布と雲微物理モデルによって得られた氷雲粒子の分布を利用し、それらのエアロゾル上で起こることが知られている不均一反応の計算を導入する。 開発されたモデルを用いて、観測のオゾン破壊物質や温室効果ガス濃度などを与えて現在気候の再現実験を行う。さらに、将来のオゾン破壊物質や温室効果ガス濃度のシナリオに基づく将来予測実験を行い、地球温暖化に伴う熱帯域の対流圏・成層圏循環の変化によるヨウ素輸送の変化や、雲量や降水量の変化による不均一反応や沈着の変化が、将来のオゾン層回復時期に及ぼす影響を推定する。本年度の化学反応計算導入の際に、全球化学気候モデルの化学モデルの時間ステップを短くしたため、化学気候モデル全体の計算時間は3倍程度まで増大した。このため、将来予測実験のような長期計算は開始する時期を前倒しする必要がある。
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Causes of Carryover |
平成28年度内に化学気候モデルによるオゾンのシミュレーションを行い、結果を解析して国際学会で発表する予定であったが、シミュレーション時期が年度の最後にずれ込んだため、国際学会での発表を次年度に行うこととし未使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
このため、国際学会での発表を次年度に行うこととし、未使用額はその経費に充てる。
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[Journal Article] Review of the global models used within phase 1 of the Chemistry-Climate Model Initiative (CCMI)2017
Author(s)
O. Morgenstern, M. I. Hegglin, E. Rozanov, F. M. O'Connor, N. L. Abraham, H. Akiyoshi, A. T. Archibald, S. Bekki, N. Butchart, M. P. Chipperfield, M. Deushi, S. S. Dhomse, R. R. Garcia, S. C. Hardiman, L. W. Horowitz, P. Jockel, B. Josse, D. Kinnison, M. Lin, E. Mancini, Y. Yamashita, K. Yoshida, and G. Zeng
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Journal Title
Geoscientific Model Development (GMD)
Volume: 10
Pages: 639-671
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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