2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K16190
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
大島 和裕 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 北極環境変動総合研究センター, 研究員 (40400006)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 極域 / 北極 / 南極 / 水循環 / 水蒸気フラックス / 水蒸気輸送 / 水蒸気量 / 可降水量 |
Outline of Annual Research Achievements |
北極と南極では,近年の気候変動に伴って様々な大気・海洋・陸域の変化が観測されているが,その一翼を担う水循環に関する調査はあまり行われていない。本課題では,両極域の大気水循環に注目して近年変化の解明を目的とする。昨年度は,両極域へ運ばれる水蒸気輸送と水蒸気量に対する過去40年間の長期変化を調査した。その結果に基づいて,今年度は長期変化の要因を調べた。 両極域の水蒸気輸送には年々変動がみられるものの過去40年間の長期的な変化はみられず,一方で水蒸気量には有意な長期変化がみられた。北極では,どの季節においても気温上昇に伴って水蒸気量が増加する傾向にあり,先行研究と整合的であることが確認された。南極では,夏と秋に水蒸気量がなだらかに減少する傾向がみられ,大気循環場の長期変化が影響していることが明らかになった。南極域の大気循環場の長期変化として,夏は南極振動に似たパターンが強まり,秋はアムンゼン海低気圧が深まる傾向があると先行研究で指摘されている。このような大気循環の長期変化傾向によって,南極域の気温はなだらかに低下する傾向を示し,水蒸気量の長期的な減少に影響を及ぼしていることがわかった。 また,水蒸気量の長期変化が気温の変化でどの程度説明できるかを検討した。飽和水蒸気量は気温によって指数関数的に変化し,1℃の気温上昇でおおよそ7%増える。これを踏まえて調べると,北極の夏と秋は水蒸気の増加が気温上昇でほぼ説明できた。しかし,冬と春は気温上昇だけで説明がつかず,北極の冬と春には相対湿度の低下して乾燥化傾向であることを示唆する結果であった。南極では気温による変化率と実際の変化率に多少の違いはみられたが,有意であるどうかは判断がつかなかった。これらの結果をより定量的に評価するためにはデータ精度の検証が必要であり,観測データや他のデータとの比較を行わなければならず,今後の課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度に整備した大気再解析データを用いて解析を進め,AGCM実験の準備を行った。得られた研究結果は国内外の学会で成果発表を行い,論文等で公表した。南極の研究を中心に我々の先行研究と最近の研究をレビューして,極域の水蒸気輸送過程に関する総説を出版した(大島・山崎,2017)。この総説の内容を踏まえて解析を進め,その結果を国際誌論文で公表した(Oshima and Yamazaki, 2017)。また学会での議論に加え,北極域研究共同推進拠点(J-ARC Net)の共同研究を通じて内外研究者と意見交換を行っており,その議論を今後の研究に活かす。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度(H30)は課題代表者の異動と,北海道大学大型計算機システムの更新のため,以下の通りに当初予定を一部変更する。以下の課題は,これまでにある程度の解析を進めてきており,年度内に成果が得られる見込みが十分にある。 従来の我々の先行研究で採用してきた水蒸気輸送(フラックス)を成分分けする解析手法を用いて,北極と南極へ運ばれる水蒸気輸送の地域性,季節性,輸送プロセスを調査する。 北極観測データを用いて,低気圧事例に対する降水システムの解析を行う予定であったが,その代わりに以下の研究を進め,結果をまとめる。過去に海洋地球研究船「みらい」による北極航海で実施した気象観測データを用いて,複数の大気再解析データや天気予報の初期値(TIGGE)との比較を行い,客観解析データの再現性を評価する。 また,極域での自然変動を評価するために大気大循環モデル(AGCM)による各種実験を予定していた。しかし,北海道大学の大型計算機システムの更新が今年度の途中に行われ,使用可能期間が限られるため,AGCM実験は試験的な計算にとどめる。
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Causes of Carryover |
理由:論文投稿料を予定していたが,投稿先のジャーナルが無料であったため,未使用額が生じた。
使用計画:解析データ保存用ハードディスクの費用に充てる。
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