2016 Fiscal Year Research-status Report
放射線の被ばく時年齢に依存してがんになりやすい突然変異細胞が異なるか?
Project/Area Number |
16K16194
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
砂押 正章 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 特任研究員 (70756030)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 放射線発がん / 被ばく時年齢依存性 / 突然変異 / 細胞競合 |
Outline of Annual Research Achievements |
小児と大人の放射線被ばくによる発がんメカニズムは異なる。これまでに我々は、放射線誘発マウス胸腺リンパ腫の原因遺伝子が被ばく時年齢に依存して異なることを報告した(Sunaoshi et al., 2015)。しかし、原因遺伝子が放射線の被ばく時年齢依存的に変化することが、放射線被ばく直後の細胞動態によるものなのか、あるいは時間が経過してからの何らかの応答によるものなのかは明らかではなく、被ばく時年齢依存的な発がんメカニズムを紐解くには発がん途中の解析が必要である。本研究では、突然変異細胞の移植実験、並びに放射線被ばく後の経時的な突然変異解析により、放射線誘発マウス胸腺リンパ腫の発症過程において、がんになりやすい突然変異細胞が被ばく時年齢に依存して異なるか否かを明らかにする。 突然変異細胞の移植実験(解析1)では、移植に用いる細胞を選定するために、これまでの研究で樹立された胸腺リンパ腫由来細胞株の培養を試みた。しかし、今回用いた細胞株の培養至適条件を設定することができず、移植実験まで至らなかった。そのため、今後新たに胸腺リンパ腫を発生させる実験を設定し、発生した胸腺リンパ腫由来の細胞を異なる年齢で放射線照射を行ったマウス胸腺に移植することで、その発がん率を調べる。 放射線被ばく後の経時的な突然変異解析実験(解析2)では、当初の計画通り、マウスへの放射線照射による発がん処理、及び胸腺細胞の採取を完了した。今後は採取した胸腺細胞からDNAを抽出し、胸腺リンパ腫発症に関わる遺伝子異常の解析を行う。 本実験により、小児期と成体期の放射線発がんメカニズムの違いが、被ばく後の初期応答により生じるのか(解析1)、あるいは放射線被ばく後から発がんまでの長期に渡る突然変異蓄積過程にあるのか(解析2)が明らかになれば、将来的に、被ばく時年齢を考慮した発がんリスク推定や早期治療法の確立への応用が期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成28年5月より、放射線医学総合研究所(放医研)から長崎大学に所属機関を変更したことに伴い、実験の進捗にやや遅れが生じている。解析1の突然変異細胞の移植実験では、当初、トランスジェニックマウス由来のPtenあるいはIkaros遺伝子欠損細胞を移植細胞として用いる予定であった。しかし、この場合、移植に用いる細胞が異なるマウス系統由来であること、生じる遺伝子異常が放射線誘発のものではないこと、移植後胸腺リンパ腫が発症するかどうかの検討に時間を要することなどの理由から、よりこれまでの実験系に近い条件、かつ高感度に放射線の影響を観察できる実験計画に変更することとした。放射線照射後の胸腺に胸腺リンパ腫由来の細胞を移植すると高頻度かつ早期に胸腺リンパ腫が発生する。そのため、当初の予定を変更し、放射線医学総合研究所に保存されている胸腺リンパ腫細胞を培養し、移植実験に用いることを試みた。しかし、平成28年度中に培養の至適条件を見出すことができなかったため、更なる代替案を考案し、平成29年度に実施することとした。 解析2の放射線被ばく後の経時的な突然変異解析実験では、当初の計画通り、1週齢(新生児期)あるいは8週齢(成体期)のB6C3F1♀マウスに放射線照射(1.2 GyのX線を1週間間隔で4回照射)を行い、照射後6~24週間までの胸腺細胞の採取を完了した。1週齢から照射を行った群では、照射後造血不良により死亡する個体が予想よりも多く観察された。そのため、実験群の規模を縮小することとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
解析1の今後の方策として、培養細胞を移植するのではなく、新たに胸腺リンパ腫を発生させる実験を設定し、発生した胸腺リンパ腫の遺伝子変異解析を行い、PtenあるいはIkaros遺伝子に突然変異をもつ胸腺リンパ腫細胞を取得する計画を考案した。得られた胸腺リンパ腫細胞を、当初の計画と同様に、異なる年齢で放射線照射を行ったマウス胸腺に移植し、その後の胸腺リンパ腫の発生率を調べることにより、放射線照射後直後の細胞動態が、がんになりやすい細胞を変化させるのか否かを明らかにする。 解析2に関しては、採取した胸腺細胞からDNAを抽出し、次世代シークエンスによる胸腺リンパ腫発症に関わる遺伝子異常の解析を行う予定である。造血不良により死亡したマウスに関して、追加実験を行うか否かは、今年度行う実験と遺伝子異常の解析結果により決定する予定である。
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Causes of Carryover |
当初、次世代シークエンス解析に用いる試薬類は平成28年度に購入予定であったが、これら試薬は平成29年度に使用予定であり、使用期限切れの試薬を使用することなどを防止するために平成29年度にまとめて購入する計画に変更した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次世代シークエンス関連試薬類が特価で販売される時期を見計らい、できるだけ安値で多くの試薬類を購入する予定である。多くの試薬類を購入することで一つでも多くのサンプルの解析を試みる。
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Research Products
(2 results)