2016 Fiscal Year Research-status Report
新規ホールゲノムジェノタイピング(GWGS)に基づいた有毒アオコ変動機構の解明
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16K16206
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Research Institution | Akita Prefectural University |
Principal Investigator |
岡野 邦宏 秋田県立大学, 生物資源科学部, 助教 (30455927)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | アオコ / Microcystis属 / ミクロシスチン / 次世代シーケンサー |
Outline of Annual Research Achievements |
世界的に問題となっている有毒アオコの代表種であるMicrocystis属は、産生される毒素ミクロシスチンの種類や量だけでなく産生の有無も種(species)内で異なっている。また、細菌の分類に一般的に用いられる16S rRNA遺伝子では変異がないことから、より高精度なジェノタイピングに基づいて毒産生や増殖特性を明らかにする必要がある。本研究では、ホールゲノムジェノタイピング(GWGS)法を新たに開発し、Microcystis属培養株の分類と毒素産生特性の解明を目的としている。平成28年度は八郎湖より単離したN0824、5B、N7の3株を次世代シーケンサー(NGS)により配列解析した。特にN0824株のscaffoldsは79と極めて良好な結果が得られた。現在、N0824株のゲノム配列をアノテーション(機能付与)解析しており終了後にデータベースに登録予定である。 八郎湖の水質モニタリングにおいて、平成28年度は6月から8月の降水量が少なく(270 mm, 平年393 mm)アオコが頻発した。また、ミクロシスチンは8月から10月まで検出され、8月22日に最大となった。アオコ形成藻類を16S rRNAアンプリコン解析によりモニタリングした結果、7月はAnabaena属、8月以降はMicrocystis属とPlanktothrix属が優占していた。また、10月に発生した有毒アオコはMicrocystis属主体であり、改めて本研究の重要性が証明された。さらに、Microcystis属培養株の増殖及び毒産生特性の解析の結果、N0824株は15°Cで増殖する低温耐性株であった。また、N7株はミクロシスチン産生株であったが、他の湖沼で単離された株(NIES-843株)と比較して毒産生量が極めて少ない結果となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は八郎湖より単離したN0824、5B、N7の3株を次世代シーケンサー(NGS)により配列解析した。特にN0824株のde novoアッセンブルは極めて良好な結果が得られた。現在、N0824株のゲノム配列をアノテーション(機能付与)解析している。アノテーション解析は平成29年度の研究計画であり概ね順調に進んでいると言える。しかしながら、MCC-NIESより取り寄せたMicrocysits属八郎湖株は、DNA抽出を目的とした培養で他の細菌のコンタミネーションが確認された。そのため、2年間で目標である16株のシーケンスの半分を達成できていない。 一方で、八郎湖の水質モニタリングにおいて、平成28度はアオコが頻発した。また、アオコ形成藻類を16S rRNAアンプリコン解析によりモニタリングした結果、10月に発生した有毒アオコはMicrocystis属主体であった。10月の八郎湖の水温は20℃未満であり低温耐性を持った特殊なMicrocysits属の存在が示唆される。まさに本研究が目的とする高精度なジェノタイピングに基づいて毒産生や増殖特性を明らかにする必要性が証明された。今後も継続したデータの補填を行っていく。さらに、Microcystis属培養株の増殖及び毒産生特性の解析の結果、N0824株が15°Cで増殖する低温耐性株であることが明らかとなり概ね順調な結果を得られた。今後さらに温度や照度がミクロシスチン産生に及ぼす影響を解析していく。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度に引き続き、開発したホールゲノムジェノタイピングGWGS法により八郎湖より分離したMicrocysis属培養株のジェノタイピングを進め、具体的には下記の3つの研究を行う。 1) Microcystis属培養株のホールゲノムジェノタイピング及び遺伝子特性解析: 平成28年度及び平成29年度前半に分離したMicrocystis属培養株のホールゲノムジェノタイピングを行うとともに、得られたホールゲノムの遺伝子特性を解析する。具体的には、ホールゲノムにアノテーション付与を行い、NIES-843株などの基準株とアライメントを行って比較解析する。特にミクロシスチン合成酵素(mcy)遺伝子群の変異や欠損について着目し、3)と総合的に解析してミクロシスチン産生機構に資する。 2) 八郎湖の水質モニタリング及びMicrocystis属の分離培養: 平成28年度に引き続き水質測定および試料採取を行う。また、Microcystis属の分離培養も継続して行い、残り15株の単藻化を目標とする。 3) Microcystis属培養株の毒産生特性の解析: 平成28年度に引き続きMicrocysis属八郎湖株に加えてミクロシスチン産生株NIES-843株を含むNIES株について500 mLフラスコによる培養試験により毒産生特性を解析する。Microcystis属培養株の毒産生特性の解析を行い、1)、2)の結果と総合的に解析し、八郎湖における有毒アオコの変動機構を明らかにする。
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Causes of Carryover |
ホールゲノムジェノタイピング(GWGS)を行うために、Microcystis属の全ゲノムシーケンスを行う必要がある。研究当初は2年間で16株のシーケンスを目標としていたが、MCC-NIESより取り寄せたMicrocysits属八郎湖株は、DNA抽出を目的とした培養で他の細菌のコンタミネーションが確認された。そのため、シーケンスに用いる株を減らしたために次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
【消耗品】MCE202 MultiNA(島津製作所)を使用するため、電気泳動用マイクロチップを購入する。また、PCR関連試薬(60千円/1000反応×2)や遺伝子クローニング試薬(600千円/キット×2)、ミクロシスチン標準品(30千円/本×3種類)なども必須である。 【旅費】国内学会としてNGS現場の会(仙台)、日本水処理生物学会(大阪)、日本水環境学会(北海道)で発表を行うとともに、日本水環境学会主催の国際会議(JWET)で発表を行う。 【人件費】実験補助を雇用してより研究の進捗をはかる。
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