2016 Fiscal Year Research-status Report
市民が保有する生物多様性情報「魚拓」の科学的活用法の検討
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16K16225
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Research Institution | Shiraumegakuen College |
Principal Investigator |
宮崎 佑介 白梅学園短期大学, 保育科, 講師(移行) (10721631)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 市民科学 / 魚拓 / 魚類分類学 / 生物多様性情報 / オープンサイエンス / SNS / 漁労文化 / 保全 |
Outline of Annual Research Achievements |
魚拓を過去の生物多様性情報として活用できるのかについて、(1) 魚拓の形態情報の正確性、(2)絶滅危惧種の分布情報、及び(3)地域による対象種の変化を検討するための調査を実施した。 まず、本土部各地に普通種であるシロギスSillago japonicaと各地の干潟で局所絶滅が示唆されるアオギスSillago parvisquamisの2種について、魚拓においても外部形態の差異が表出するのか検討するためのデータを収集した。具体的には、現在唯一の健全なアオギス個体群を維持する瀬戸内海西部において採集された個体の標本・写真資料と同時に魚拓を作製した。また、宮崎県延岡市において、マダイPagrus major・クロダイAcanthopagrus schlegelii・キチヌAcanthopagrus latusについて、各1個体の標本・写真資料・魚拓を作製し、特に魚拓については同一個体を対象とした12名分の個人差が測れるデータを収集した(このようなデータ取得は間違いなく人類初の試みとなったはずである)。これらのデータをもとに、魚拓による種同定の可否を検討している最中である。 次に、宮崎県及び千葉県の釣具店において、環境省レッドリストで絶滅危惧IB類に選定されているアカメやアオギスの魚拓が保存されているか否かについて、調査を実施した。釣具店をはじめとする魚拓が保存されている可能性がある場所の調査については、市民科学による手法の応用を検討している。そのため、WEB魚図鑑のデータベース等の参照可能性について、市民科学に取り組む研究者や民間団体との議論を継続的に実施しているところである。 さらに上記と関連することではあるが、魚拓対象種の地域差について聞き取りを実施しており、日本の最南端(沖縄県)から最北端(北海道)までの緯度的な違いに伴う魚拓文化の差異についても、実地調査の検討を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
一年目の新任の教員となったこともあり、本務(研究以外の教育・事務等の仕事)に時間を取られ、想定していた以上にエフォート率を確保できなかったことが一つ目の大きな理由である。また、当初の想定とは異なり、ファーストステップとして、魚拓のみで正確な種同定の可否の検討が不可欠な研究過程であることに気付いた。これは、初期段階では想定していなかったひとつの大きな仕事であり、それを挿入することになったことが二つ目の大きな理由である。 前者についての詳細な理由は次の通りである。釣具店等の実地調査については、その再現性のある方法論を探るまでに時間を要し、あまり初年度には細切れとなった時間の中で具体的な実地の調査を進めることはできなかった。 後者についての詳細な理由は以下の通りである。魚拓の種同定の可否をアオギスとシロギスで測るための調査を行うだけでなく、その個人差が表れる範囲についての検討も行う調査の場のセッティングに時間を要した。また、そのデータの分析時間の確保も本務との時間の兼ね合いでなかなか進展できなかった。 どちらについても、次年度の進捗次第では外部委託(アルバイト等)を検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
一定の方式で釣具店等で保有する魚拓の調査を宮崎県・東京湾・北海道を中心に全国へ進展していく。上記の3地域には、絶滅危惧種に選定されている魚種が主要な釣りの対象種になっている(なっていた)地域である。特に東京湾を中心に、自身で実地調査を進め、その協力の可否も含めた市民科学のデータの分析も行う。また、魚拓の対象種等の緯度的な差異についても注目しており、沖縄県から北海道にかけての魚拓を市民科学の手法も駆使して情報収集を行う。そのためのWEBに公開されたデータベースを立ち上げる予定である。それに先立って、自身でもある程度のまとまったデータを収集しておく必要がある。 また、昨年度に収集した魚拓のデータ(アオギス・シロギス、マダイ・クロダイ・キチヌ)について、生物統計学的に精査し、種間差と個人差を明らかにすることによって、魚拓の生物多様性情報としての再検証可能性を検討していく。
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Causes of Carryover |
3月下旬に研究代表者および協力者の出張を行ったことに伴い、その出張報告・請求書・支払い等が年度を跨ぐ形となったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
理由にも記したように、前年度中の研究活動の年度を跨いだ未払分として使用される。
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