2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K16237
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
山口 臨太郎 九州大学, 都市研究センター, 学術研究員 (30557179)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 気候変動 / 割引率 / 所得分配 / 世代内衡平 / 費用便益分析 / 自然資本 / 生態系サービス / 空間割引率 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、気候変動政策の費用便益分析に使われる消費の時間割引率を、世代内衡平性(所得格差)や空間的な不均一性を考慮して拡張するものである。具体的には、(I)所得格差が時間割引率に与える影響を理論・数値例により明らかにし、消費以外の尺度での不平等の影響も検討する。(II)空間割引率の基礎理論の確立と適用を試みる。 平成28年度は、(I)所得分配メカニズムの下で消費の分配パターンが決まる理論モデルを構築し、分配を考慮した消費の時間割引率の公式を導き、数値例を検討し、(II)空間割引率の先行研究レビューと理論モデルの構築を行った。 これを受け今年度は、(I)効用が消費だけでなく、環境の質や自然資本の水準によっても決まると仮定し、環境や自然資本に関する衡平性が割引率に与える影響、さらに人口変化の影響も取り入れた。以上の理論的な結果に基づき、数値例を示した。前年度はスプレッドシートを用いた簡易な数値例にとどまっていたが、Matlabを用いたシミュレーションで精緻に行った。その結果、分配が割引率に与える影響は人口変化を考慮するとマイナスとなった。 (II)空間割引率については、初年度に構築したモデルに基づいて、消費や生態系サービスを尺度にした割引率を導出した。具体的には、空間選好率、限界効用の弾力性、消費と生態系サービスとの交差弾力性、消費の分布、生態系サービスの分布、人口密度によって消費の空間割引率が決まることを示した。生態系サービスへの支払い意思額(WTP)を尺度にした空間割引率は、消費の空間割引率と生態系サービスの空間割引率との差になる。生態系サービスの評価研究では、距離とともにWTPが減っていくことが知られているが、これに理論的根拠を与えることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の課題であった、消費の分配影響だけでなく環境や自然資本の分配影響を割引率に反映させ、数値シミュレーションを行うことができた。また、人口の影響も勘案できた。空間割引率の理論も、公式として導出することができた。ただし、消費や生態系サービスの仮想シナリオに基づく空間割引率の振る舞いの分析については、説得力のある空間的分布が設定できず、不十分であった。
|
Strategy for Future Research Activity |
(I)時間割引率の理論と数値例については、おおむね研究がまとまりつつあるため、シミュレーションの精緻化を行い、論文を完成させる。(II)空間割引率については、これまでに確立した理論モデルに基づき、消費や生態系サービスの妥当な空間的分布シナリオを設定して数値例を完成させる。また、将来的に収集データや地図情報データを使った研究に進めることを念頭に、実証的課題を考察する。
(I)(II)より、空間的不均一性と時間割引率との関係についてまとめ、気候変動や生態系サービスの政策評価において、時間割引と空間割引の双方をモデル化する際の理論的・実際的課題についても考察する。
|
Causes of Carryover |
(理由) 国内の研究協力者との打ち合わせは、学会参加時に時間を確保できたため、打ち合わせを1回に抑えることができた。また、欧米の環境資源経済学会等における研究の成果発表のため予定していた外国旅費は、他の研究費により捻出できた。なお、空間割引に関するデータ収集・加工作業は、今年度は発生しなかった。 (使用計画) 引き続き、研究代表者の環境資源経済学会等における研究の成果発表のための国内外旅費、国内外の研究協力者等との打ち合わせのための旅費、割引率に関する調査・データ収集・加工作業の謝金等に活用する。
|
Research Products
(4 results)