2016 Fiscal Year Research-status Report
アスベスト災害を事例とした社会的災害に対する公共政策研究
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16K16242
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
南 慎二郎 立命館大学, OIC総合研究機構, 専門研究員 (80584961)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 環境マネジメント / アスベスト / 公共政策 / 社会的災害の予防 / 社会的秩序 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は初年度であり、本研究期間途上での最初の成果として論文「社会的災害対策の実効性と当事者行動の制度経済学的分析-大阪泉南地域のアスベスト産業を事例とした検討-」を発信する。本論文は概ね、アスベスト災害のような複合的ストック災害の予防対策についての理論的整理・検討と、その知見に基づく事例分析で構成する。 理論的整理・検討において、従来の経済学における個人の選択・行動および将来的なリスク評価に関する理論を整理した上で、新自由主義的な社会経済・政策対応では災害対策が困難であることを明確とする。複合的ストック災害の場合は将来に対策に係る社会的費用が発生する上に時間選好によって現在利益を優先してしまう心理的誘因も強い。さらに将来リスクが不確実なため、個人の判断に委ねるのでは費用・リスクを過小評価あるいは無視されやすい。対策実行へ誘導するために、経済的インセンティブや教育活動による当事者意識や判断基準への働きかけも有効な手段であるのは間違いないが、問題は各個人が対策実行の選択をしようとした場合にそれを受容しうる社会・経済・制度であることが条件として必要である。さらに、対策不実行の選択に係る誘因があるため、定言命法的な強い公的規制・介入がなければ当事者の対策実行の選択が困難であることも想定できる。このことから、個人の心理的側面に働きかける行動経済学的アプローチ(リバタリアン・パターナリズム)にも限界があり、必要不可欠な対策実行については共通認識された社会状態に移行することが重要である。そこで社会的秩序を軸として災害予防政策の理論を追求する。 次に、大阪泉南地域での災害事例について、そのアスベスト製品市場・地域社会等の実態を踏まえた上で、新自由主義的対応やリバタリアン・パターナリズムでの対策の困難さを実証的に捉え、社会的秩序を中心としての政策対応の重要性を明らかとする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究はアスベスト災害のような社会的災害に対する公共政策の理論的追求と事例検証を行うものであり、大阪泉南地域のアスベスト産業と建設労働者の事例を取り扱うものである。 現状では研究実績に示した通り、理論的追求と大阪泉南地域の事例については一定進めているところである。特に泉南地域の過去のアスベスト工場の網羅的把握として、過去の工場名鑑や地図情報、電話帳等のありうる限りの資料を用いて、時系列的情報も含めた総合的データ整理を行った。ただし、地域社会や工場操業当時の実態についてのヒヤリング調査等は十分に行えていない。そして建設労働者の調査には取り組めておらず、これらは平成29年度に特に注力して取り組んでいく。 本研究課題がやや遅れている事情として、平成28年度の専門研究員としての雇用原資および業務時間上の専念義務が他の科研費(基盤研究A「アスベスト災害・公害の予防・補償・救済と国際的連関」、基盤研究B「有害性災害廃棄物処理と地域復興の行財政研究」)の研究遂行であったことが背景にある。ただし、そこでの研究内容・成果は本科研費の研究活動と有機的に連関している。例えばロシアの原料アスベスト産業の調査研究を通じてアスベスト産業の市場行動の特徴やその産業の立地する地域経済についての考察や、震災被災地でのアスベスト災害に対する住民等の意識・心理状況についての検討など、得られた理論的知見は本研究に寄与している。そのため、これら別の研究課題への取り組みは単なる停滞原因ではなく、本研究課題の推進に役立つものである。
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Strategy for Future Research Activity |
上述した通り事例調査の面での遅れがあるため、現地訪問や関係者とのヒヤリング・意見交流活動に注力する方向で進めていく。訪問機会の調整を計画的に組むことで継続的な調査活動へとつなげていく。 また平成29年度は専門研究員としての他研究課題の専念義務が前半の半年間の予定であるので、後半は本研究課題に集中することができる。この点で平成28年度よりも研究推進に取り組める状況といえ、計画進行の遅れをカバーしていく。
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Causes of Carryover |
「現在までの進捗状況」で記した通り、平成28年度は事例調査を十分に実施できなかったため、それに係る旅費や人件費・謝金の予算執行について、次年度に繰り越すこととなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度に実施できなかった調査活動に係る旅費と人件費・謝金の執行として使用する。具体的には大阪泉南地域や建設労働者の被害実態・被害補償の国賠訴訟(東京、大阪、京都等)の訪問ヒヤリング調査や調査活動への協力に係る謝金や実施経費(データ集計等)に該当する。
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