2016 Fiscal Year Research-status Report
『朝鮮民暦』における伝統知と近代知の交錯についての科学史研究
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16K16337
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
宮川 卓也 東京理科大学, 工学部教養, 研究員 (00772782)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 朝鮮民暦 / 資料収集 / 資料精査 / 口頭発表 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は1)資料収集、2)口頭発表を行った。次年度での論文執筆に着実に進展している。 1)植民地支配下にあった朝鮮で発行された暦である『朝鮮民暦』は、日本の大学の図書館にほとんど所蔵されておらず、韓国では国立中央図書館および天文研究所にのみ全冊揃った状態で残されているが、運良く日本の古書店に全てではないがシリーズのほとんどが売りに出ていたものを購入することができ、現在分析・検討を進めている。ただし、今日使用されている暦(カレンダー)とは体裁が大きく異なるため、分析に必要な暦学の先行研究を多く参照する必要があり、関連先行研究・資料の収集に多くの時間と費用を割いた。また韓国での資料調査を数度行った。国立中央図書館とソウル大学図書館を中心に行い、関連資料の収集に努めた。天文研究所の資料はウェブ上で多く公開されているため、訪問は行わなかった。日本国内では国立天文台図書館を訪問し、当時の事務資料や内部資料を中心に調査を進めたが、暦編纂を担っていた内務省の資料に関しては所在が明らかでないため、さらなる調査が必要である。 2)国際日本文化研究センターで行われたワークショップおよびソウル大学科学史科学哲学協同課程(韓国語)で口頭発表を実施した。まだ調査を開始して間もないため、資料である『朝鮮民暦』の特徴や、その発行をめぐる大きな文脈、今後の研究構想などについて言及するにとどまったが、多彩な分野の研究者たちから建設的かつ批判的なコメントを多く得ることができ、収穫の多い発表となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1)資料調査:最重要一次資料である『朝鮮民暦』を確保したことは何より大きなステップであった。また国立天文台図書館における調査は、内地の天文台と朝鮮の気象台の深いつながりを示すものとして非常に興味深く、さらなる検討が必要ではあるが、朝鮮だけにとどまらない帝国レベルの文脈で暦書について考察する手がかりとなった。ただし、上述のとおり、内地において暦書出版を担っていた内務省資料の所在が明らかでなく、当時編暦に関わっていた伊勢神宮などにも問い合わせたが、有益な答えは得られなかった。 2)口頭発表:国際日本文化研究センターおよびソウル大学科学史科学哲学協同課程で発表を行い、有益で建設的なコメント・批判を得た。内務省の資料などまだ補充の必要なところはあるが、発表を通じて、議論の大枠をどのように設定するべきか、朝鮮だけでなく内地や台湾、あるいは諸外国との比較検討の余地、暦書に記された「迷信」的要素の分析をどう捉えるかに関して省察する機会であった。論文執筆までにはまだ分析と考察の余地が多く残されているが、資料の収集と発表を通じて、さまざまな可能性が拓けた。
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Strategy for Future Research Activity |
1)資料調査:引き続き、関連資料および先行・関連研究の収集に努める。特に内務省関連資料はその所在を明らかにするところからではあるが、その資料が得られれば、大きな前進になることが期待できるため、積極的に進めていきたい。 2)口頭発表:6月初旬に開かれる日本科学史学会での発表を予定している。天文学史や暦学史専門家が出席することが予想され、多くの批判的・建設的コメントが得られると期待できる。 3)出版:勁草書房から出版予定の『帝国日本の科学思想』へ寄稿依頼を受けたため、それに向けて原稿の執筆を進めていく。一年次およびこれからの資料調査結果をもとに、また発表を通じて得られた幅広い展望を吸収しつつ、帝国日本の科学と植民地の現実や社会との関わりをつなぐ暦に関して深い洞察を示したい。
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Causes of Carryover |
1)廉価での資料収穫:『朝鮮民暦』という一次資料が、当初想定していたより廉価で購入できたことが大きい。貴重資料で図書館での所蔵も僅少であるため、古書店からの購入(とくに韓国の古書店)を想定していたが、日本国内で2016年4月に売りに出された約25年分の『朝鮮民暦』が想定よりずっと廉価であった。 2)資料の所在不明:調査を進めるうちに、内務省関連の資料の重要性に気づき、調査を進めようとしたが、そもそもどこに所在されているのかが不明確なため、難航している。調査のための出張に出かけようにも、どうしようもない状況であった。 3)韓国内の資料:多くの資料が韓国内に残されていると事前に調査していたが、多くの資料をウェブ上で公開しはじめ、またそれ以外の重要な資料が喪失したことなどから、調査旅行の回数を減らさざるをえなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前年度に引き続き、資料の収集とそのための出張費用として使用する。 1)国内:多くの資料が東京都内にあるものの、京都や伊勢神宮など日本国内の諸地域に隠れている資料があると考えられる。また、前述のとおり、内務省関連資料の捜索に注力したい。地道な資料調査を着実に進めていく。 2)国外:韓国内の資料に関して、インターネット上に公開されていない資料があることを最近になって知ったため、その確認のために韓国を訪問する。また『民暦』が植民地朝鮮だけでなく台湾でも発行されていたため、その確認のため台湾への出張も検討している。
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