2016 Fiscal Year Research-status Report
着生地衣類の二次代謝産物による石造文化遺産への化学的劣化に及ぼす影響評価の試み
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16K16339
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
河崎 衣美 筑波大学, 芸術系, 研究員 (60732419)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 石造文化遺産 / 地衣類 / 石材劣化 / 二次代謝産物 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、今まで評価が困難だった、地衣類による化学的劣化の定量化を目的とし、地衣類の水溶性成分を定性定量分析によって明らかにし、地衣類の二次代謝産物の分布を把握することで化学的劣化のメカニズムを推測し、それら二次代謝産物が石材に及ぼす化学的影響を実験によって定量的に解明することを試みるものである。当該年度は石造文化遺産に着生する地衣類における二次代謝産物の分布を分析するため、地衣類を採取し、顕微赤外分光分析を実施した。対象試料として、カンボジア・アンコール遺跡群バイヨン寺院の構成砂岩に付着する地衣類を採取し、顕微赤外分光の透過法により測定を行った。試料は地衣類と石材との界面に対して垂直方向に破砕した断面より微小片を採取し、プレスして薄片を作製した。二次代謝産物やバイオミネラルの分布を把握するため、地衣類の構造(皮層、藻類層、髄層、偽根等)毎にそれぞれサンプリングを行い解析した。測定した地衣類は顆粒状の生育形を呈したLepraria sp.、痂状の生育形を呈したAlthoniales sp.、葉状の生育形を呈したDirinaria sp.と Dirinaria aegialitaである。この結果、地衣類の構造における赤外吸収特性の違いが明らかとなった。特にAlthoniales sp.では1610cm-1付近、1315cm-1付近、780cm-1付近にピークをもつシュウ酸カルシウム(バイオミネラル)の分布について、表面、藻類層、髄層の中で髄層に多く分布することが明らかとなった。Lepraria sp.ではシュウ酸カルシウムは髄層の下にある石材界面や藻類層に存在するが、明確な差は認められなかった。また、カンボジア・アンコール遺跡群、鹿児島県天城町の石造文化遺産等について着生微生物の調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
地衣類の水溶性成分の分析方法が確立できていないが、二次代謝産物の分布分析や石造文化遺産の着生微生物調査などを実施することができたため、おおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
研究協力者との協議を進め、地衣類の水溶性成分分析方法の確立を試み、分析データを集積する。フィールドにおける石材と地衣類の界面における水溶性成分の分析方法についても検討し実施する。水溶性成分の石材への影響を明らかにするための実験室における試験や曝露試験を行う。
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Causes of Carryover |
地衣類の水溶性成分の分析手法が確立しなかったことから、分析数が予定よりも少なくなり、分析に使用する物品を購入しなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当該年度に予定していた水溶性成分の分析を次年度に行うため、分析に使用する物品を購入することにより使用する。
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