2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K16341
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Research Institution | Tsurumi University |
Principal Investigator |
星野 玲子 鶴見大学, 文学部, 准教授 (90583485)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 石造文化財 / 塩類風化 / 濃度測定 / 文化財科学 / 保存科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は石造文化財の劣化とその保存対策に向けた取り組みの一つとして、塩化物イオン量を数値化する方法を用いて塩類風化の度合いを調べ、保存対策や今後の予測に役立てることを目的としている。また、その方法の普及活動にも努めるというものである。その測定は、①石造文化財もしくは岩盤表面の塩化物イオン量と②砕屑物の測定の2種がある。 神奈川県逗子市まんだら堂やぐら群・大切岸、神奈川県鎌倉市覚園寺裏山やぐら群、神奈川県横浜市赤レンガ倉庫、静岡県静岡市久能山東照宮、千葉県富津市金谷及び安房郡鋸南町鋸山、長崎県長崎市出島などの調査、分析、視察を実施し、それらの成果を学会や学術雑誌で報告した。まんだら堂やぐら群・大切岸は継続的に毎年調査を実施しており、その年毎の傾向をつかむことができつつある。また神奈川県側のこれまでの成果をもとに千葉県側の状態について理解を深めることができたため、遠隔地同士の比較に役立てるという目標に近づいた。また、今年度は横浜赤レンガ倉庫の調査が実現した。これまで調査対象は石造文化財が主であったが、塩類風化は煉瓦にも生じる。この調査のきっかけは、平成29年に行われた塩類に関する研究会で「神戸の煉瓦倉庫で塩類風化が起きているが、横浜の状況はどうか」と関西の研究者から問いかけられたことに始まる。これはまさに本研究によって情報交換の場ができ、研究の幅が広がったといえる。現在は展示施設のほか、大半が商業施設ではあるものの、横浜の歴史を知る上で重要な歴史的建造物であるが、今となってはそれがあまり知られていない。これを機に、現役で使われている建造物の在り方、近現代の文化財、多数の人が集まる場所に於ける安全面の確保という面でも行う意義のある調査であった。また、久能山東照宮はあえて昨年1年間あけ、本年度再調査を実施した。これにより蓄積量や石燈籠の変化を知る機会となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①石造文化財及び岩盤表面の含有量については、かなりの点数のデータを収集することができた。またこれらの結果から、見た目の劣化状態と塩化物イオンの含有量との傾向を捉えることができた。即ち、表面が摩耗していたり周辺に砕屑物が堆積するなどの劣化状態の確認できる箇所は塩化物イオン量も高く、反対に加工痕が明瞭であったり、表面仕上げが平滑な良好に見える状態の所は、塩化物イオン量も少ないというものである。概ねこの傾向に合致する。この測定方法の最終目的は、劣化の度合いの指標を策定することで、各地の調査データを増やすことでその基準がある程度見えてきた。 また、飛来塩が主要因と考えられてきた久能山東照宮の石燈籠についても、これまでの測定データおよび文献資料から、石燈籠に関しては海風による被害は少なく、塩類風化が主要因ではないということを明らかにできつつある。しかし、現在見られる表面剥離や亀裂の原因究明には至っていない。こうした飛来塩の量については、千葉県富津市金谷港付近の調査によって明らかになったもので、こうした各地のデータを相互比較することでつながってくることが増えてきた。 これらの成果の一方、②砕屑物中の含有量の測定は、試料採取は進んだものの、実際の測定実験が不十分であるため、延長した次年度に集中的に実験を実施する。
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Strategy for Future Research Activity |
本来の補助事業期間は平成30年度までだが、もう1年の延長を申請した。これまで各地の調査に赴き、その調査地における分析と考察に取り組んできたが、各地の調査地点の相互比較は十分とは言えないため、次年度は総括のために各地の比較作業に重点を置いて取り組む。また、次年度は②砕屑物中の塩化物イオン量の測定実験をし、砕屑物のみの比較に留まらず、砕屑物と岩石表面の比較も行い、これまでの研究の総合評価をする。 劣化の度合いの指標を策定し、今後の保存対策や劣化の進行度を知る手掛かりとなるものを構築することも本研究の主となるものである。文化財の維持・管理にはお金がかかる。明らかに劣化が進んだ状況になったものに対しては保存対策や修復作業が施されるが、近年進められている予防保存はまだ十分でない所が多い。塩類の結晶による損傷が明確な場合は塩類風化が起きていることを認識しやすいが、塩化物イオン量が非常に多い箇所であっても表面に結晶が現れておらず、そのため塩類風化が起きていることに気づかない場合もある。また、今後表面の損傷が起きる可能性があるか否かを判断することも難しく、調査に予算を割くことはなかなか難しいのが現状である。その点、本研究に用いる手法は、材料費が安価であること、測定に特殊な技能を要しないことから誰でも調査をすることが可能であり、調査の委託費用を削減することができる。こうした利点を今後生かすため、本研究の測定方法の普及に努める必要がある。こうした活動にも力を入れていきたい。また、その劣化度の判断の際の指標を細分化して提示したいと考えている。
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Causes of Carryover |
現地調査の際、複数人での作業を予定していたが、実際は1人で赴いての作業となったため、人件費が大幅に下回った。また比較的近い場所の調査が多かったため、旅費も予定を下回っている。外部機関への分析依頼の可能性があるため、その他として予算を予定していたが、現段階で外部機関への依頼を行っていないため、こうしたことから実際の使用金額が下回った。 次年度は最終年度となるため、これまでの調査で不十分である場所のデータ収集、報告のまとめに積極的に取り組む予定である。
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