2017 Fiscal Year Research-status Report
紙質文化財にみられる緑青焼けに対する修復処置方法の開発
Project/Area Number |
16K16342
|
Research Institution | Independent Administrative Institution National Institutes for Cultural Heritage Tokyo National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
大原 啓子 (貴田啓子) 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存科学研究センター, 客員研究員 (20634918)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 緑青焼け / 紙の劣化 / 銅イオン / セルロース分子量 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本画などにみられる「緑青焼け」は、銅を含む顔料により基底材の劣化が著しく促進され、変色、脆弱化を伴う深刻な問題である。本研究では、日本の書画における修復処置として、現行の裏打紙取り替え工程、および水洗工程に着目し、「緑青焼け」に対する処置としての効果を評価する。 これまでに、緑青顔料を膠水溶液と混合し、絵具として馴染ませ、水で希釈すると、緑青中の銅成分がイオンとして溶出し、溶出する銅イオン量は、緑青顔料の粒子サイズや焼成処理の有無により異なっていた。緑青顔料の銅成分は水中ではほぼ溶出しないが膠水溶液中では銅イオンとして溶出することから、膠と緑青由来の銅イオンとの相互作用に着目した。 性質の異なる膠水溶液中において、緑青顔料の銅イオン溶出量が大きく異なっていた。これらの膠を用いた緑青顔料-紙試料を湿熱加速劣化させ、緑青焼けによる劣化を評価した結果、アルカリ処理を経て、膠のコラーゲン側鎖のカルボキシル基量が多いことが予想される膠を用いた試料で、銅イオン溶出量が最も多く、紙の加速劣化前後の色差およびセルロース分子量変化より、緑青焼けによる劣化が大きいことを示した。これより、銅イオン溶出量の少ない膠の使用により緑青焼けの進行を低減できる可能性を見出した。 一方、紙のにじみ止めであるドウサ処理を行うと、湿熱加速劣化試験では、楮紙のセルロース分子量の低下が抑制された。また、楮紙の緑青焼けの劣化現象においても、セルロース分子量が1/3程度に低下する段階までは、ドウサが分子量低下を抑制した。ドウサは、紙の主成分セルロースと、水または銅イオンを含有した水との反応を抑制する効果があることが示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
緑青焼けの現象について、原因物質が緑青顔料だけでなく、顔料を支持体に定着する際に用いる膠に着目し、膠と緑青顔料の相互作用による銅イオンの溶出についての詳細を確認した。膠の種類による差異への着眼は、当初の計画にはなく、同室の研究員の方の助言により試してみたところ、大きな差がみられ、膠と緑青顔料の相互作用により銅イオンが生じることや、膠を選択することにより、緑青焼けの低減につながる可能性を見出し、当初より大幅に進展した。しかし、当初の予定にあった現行の水洗工程を確認する研究については、来年度にずれこんでいるため、「おおむね順調に進展」とした。
|
Strategy for Future Research Activity |
緑青焼け現象解明の一端である本研究で着目した、銅イオンの影響の観点については、おおよそまとまってきたため、今後は発表の機会を増やし、論文にまとめる方向に進める。当初より遅れて、来年度にずれこんでいる部分の研究は、現行の水洗工程の確認であるが、時間のかかる緑青焼けの生じた楮紙の加速劣化処理までは終了しているので、水洗を行ったのちに評価を進めていく予定である。
|
Causes of Carryover |
当初予定になかった銅イオンの影響についての調査をより詳しく進めたため、水洗工程の実験が遅れている。この実験には、修復現場の調査を交えながら行っていく予定であり、出張費を次年度に回したために次年度使用額が生じた。
|