2017 Fiscal Year Research-status Report
褪色したカラー映画の復元と長期保存に関する基礎的研究
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16K16343
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Research Institution | The National Museum of Modern Art, Tokyo |
Principal Investigator |
大傍 正規 独立行政法人国立美術館東京国立近代美術館, 企画課, 主任研究員 (40580452)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 可燃性フィルム / 発掘された映画たち2018 / デジタル復元 / 色再現 / 再タイミング版 |
Outline of Annual Research Achievements |
ジョージ・イーストマン博物館において、2017年5月5日から7日にかけて開催された第3回ナイトレート・ピクチャーショーに参加し、可燃性フィルムを映写した際の色味や、白や黒の豊かな階調を実見した。この経験を踏まえ、東京国立近代美術館フィルムセンター(NFC)において、1950年代の新東宝を代表する7作品の可燃性オリジナルネガからダイレクトプリントを作成する際に、可燃性フィルム映写時のルックを踏まえた復元を実施することができた。その成果は、上映企画「発掘された映画たち2018」において披露された。また、昨年度に購入した貴重書『パテ社の生フィルム-現像及び焼き付けの手引き』(1926)に同封されているコマ帖を参照し、当時の染色や調色がフィルムに及ぼす色調変化の傾向をデジタルデータ上でシミュレーションし、その結果をカラーグレーディング時の色補正に反映することで、世界的にもその名を知られているNFCの初期外国映画コレクション(小宮登美次郎コレクション)に含まれていた『コルシカの兄弟』(パテ社製作、アンドレ・アントワーヌ監督、1915年)の色彩復元の精度を高めることができた(同デジタル復元版も「発掘された映画たち2018」において公開した)。最後に、仙元誠三カメラマン監修のもと、1982年当時に『セーラー服と機関銃 完璧版』のタイミング(色彩補正)を担当した一人であるフィルムセンター技術職員の鈴木美康から、相米慎二監督のトレードマークとも言える長廻しを数多く含む全115カットの再タイミングに関する技術的助言を得て、現役のタイミングマンが映画完成時に極めて近い色彩を再現した。この再タイミング版もまた、上映企画「発掘された映画たち2018」の中で披露され、本研究成果の社会的還元を図ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度に株式会社IMAGICAと実施した二色式カラー映画『千人針』(三枝源次郎監督、1937年)のデジタル復元の成果、すなわち、二色式カラーシステムで再現可能な色域のみを用いて行った色再現の手法を応用し、今年度は、小津安二郎監督のカラー映画『浮草』(1959年)のデジタル復元を実施した。『浮草』の公開前年に刊行された『映画技術』(No.82)の記事「アグファカラーの色の再現性」所収の撮影データを援用し、同方式で再現可能な色域のみをグレーディング時に使用することで、小津のアグファカラーの歴史的再現を行った。前掲記事には、色の再現性テストに用いられたカラーチャートに関するデータと、そのカラーチャートをアグファカラーで撮影した結果のデータが掲載されており、そこから赤、緑、青のそれぞれの色が、アグファカラー上でどのように記録されるかを読み解いた。IMAGICAのカラーマネジメントアドバイザーである長谷川智弘氏が、このアグファカラーの特徴を分析したうえで、カラーグレーダーに助言を行い、色再現を行った結果、「空の色を黒白映画のように白っぽく」(『日刊スポーツ』1958年5月18日)という小津の狙いを明確に再現するとともに、小津のアグファカラーに特徴的な「赤」についても、抑制の利いた色合いの背景のなかに自然と溶け込ませることができた。このように、映画フィルムの物質的調査と資料調査を組み合わせた本研究は順調に推移しており、映画公開時に残された撮影データをデジタル復元に援用するという今回の試みもまた、従来のカラー映画の復元手法に新しい可能性を切り拓いたと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
①平成28-9年度に引き続き、映画フィルムの物質的調査と、綿密な資料調査を組み合わせたデジタル復元に取り組む。 ②国内の現像所において、NFCの技術職員である元タイミングマンが現役時代にタイミングを担当した作品について、当該作品の撮影カメラマン立会いのもと、封切り当時の狙い通りの色彩を再現するアナログ復元の有効性が再確認されたことから、今年度も新たに1作品を選定したうえで、再タイミング版の作成を行う。 ③これまで学術的交流を行ってきた、カラー映画の色再現に関する研究の第一人者であるバーバラ・フルーキガー(チューリヒ大学教授)とテクニカルミーティングを開催し(2018年5月18日を予定)、そこから新たに得られた知見を今後の映画復元に反映させる。
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Causes of Carryover |
(理由) 『セーラー服と機関銃』の再タイミング版作成に際して、当初予定していた仙元誠三カメラマンによる複数回の東京出張が1回に収まったことと、その他の研究計画に関しても当初の見込みと実費との間で誤差が生まれたため。 (使用計画) 来年度に実施する再タイミング版作成時のカメラマンの交通費や謝金、及び調査研究用の書籍購入費等に充てる。
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