2018 Fiscal Year Research-status Report
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16K16348
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
福本 侑 立命館大学, 立命館グローバル・イノベーション研究機構, 研究員 (20772974)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 年縞 / 完新世 / 湖沼堆積物 |
Outline of Annual Research Achievements |
継続して研究を進めているフィンランド北方のケボ湖において、新たに2m長のボーリングコアが得られ、これまで行ってきた1m長の試料に加える形で分析を進めた。炭素年代測定と珪藻分析が完了し、これまでの薄片スライドの観察や縞の計数結果、共同研究者による軟X線元素分析などと合わせて考察をすすめた。またこれまでの試料(過去150年)よりも古い、過去600年にさかのぼる試料であることが分かった。ケボ湖は河川の淀みに位置しているため、湖の堆積物に比べて気候変動に対する応答が鈍いと考えられたが、小氷期や中世温暖期を含む気候変動が発見された。また、年縞の計数による堆積物の年代よりも、炭素年代測定による年代のほうが古くなる結果が得られ、年縞とみられる縞模様(ラミナ)は1年に複数枚形成された可能性が示唆された。同様に研究を進めてきたクインカイセン湖のコア試料の表層部について精度を上げた分析を行い、数年単位の珪藻種の大きな変動がみられ、人為的な湖水の富栄養化の湖水生態系に対する影響が明らかとなった。 また昨年度より、フィンランド東部のレへミランピ湖で採取された15cm長のコア試料について珪藻分析を行った。そして同湖で採取された他の複数のコアとの比較を行い、年縞が形成される気候、地理、湖水条件を、珪藻群集の変化を用いて考察した。その結果、湖水の栄養状態よりも冬の気温や前年の降水量によって、湖底の酸化還元度が変化し、年縞の有無が決定されることが分かった。そして近年の温暖化の湖水環境への影響が強く示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
共同研究者とのデータの照合や調整に時間を要したため、全体としては研究が遅れているが、論文執筆や発表について準備を進めている。ケボ湖の年縞堆積物について、共同研究者による分析と合わせて十分な結果が得られており、予察的な結果を今年度4月に学会発表を行うが、昨年度に予定していたセディメントトラップで得られた現在堆積中の季節ごとの試料について分析を行うことができなかった。 レへミランピ湖の15cm長の試料について行った珪藻分析結果は、現在論文を投稿中であり、今年度半ばの受理を目指している。クニンカイセン湖のコア試料について昨年度よりも精度を上げた分析を追加で行い、結果のとりまとめと発表の準備を行っている。ただ、他のコアや先行研究と比べて顕著な環境変動が見られなかったため、論文ではなく学会発表に変更になる可能性がある。また共同研究者の異動などで、昨年度に予定していたカッラベシ湖の堆積物の研究を進めることができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
ケボ湖の試料について分析結果をまとめ、論文執筆を行っている。白と黒の縞の流入由来源を明確にするためにセディメントトラップ試料の珪藻分析を行う予定であったが、昨年度に行えなかったため、分析を行い論文に盛り込む予定である。そして北極圏の論文精査を行い、今年度半ばまでに論文投稿を目指す。また、堆積物の年代モデルにまだ不確定な要素があるため、今年度初めに追加で炭素年代測定を行う可能性がある。 現在論文を投稿中のレへミランピ湖の試料について、珪藻分析や年縞の堆積構造の解明など一連の分析が完了しているが、査読結果によっては同じ湖の異なる湖盆で採取された追加のコア試料について分析を行う可能性がある。クニンカイセン湖の試料については、現段階では国際誌への投稿に耐えうる発見ができていないため、学会発表ののち、軟X線による元素データの精査や、統計的手法を用いたデータの詳しい解析を進め、論文執筆への議論を進める予定である。また研究が進まなかったカッラベシ湖については、共同研究者の調整により、層相観察とより高精度の珪藻分析を進める予定である。 当初の研究計画では、堆積物の詳細な年代コントロールと年縞構造の解明のために樹脂固定による薄片スライドの作成と年縞の計数を行う予定であったが、共同研究者が精力的に進めているため、当方は堆積物の相層の解析よりも珪藻分析を主に行っていく予定である。
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Causes of Carryover |
2年目から所属機関が変わり業務が増えたことにより湖沼の年縞堆積物に関する分析、研究が遅れた。共同研究者側に人事の移動や学位の取得などの事情が発生し、研究の進行に多少のブランクが生じた。また共同研究を行っていた海外機関側で施設の移転、工事に伴い分析ができない状況が発生し、渡航予定を延期したことも遅延の原因となった。 次年度からは順調に分析が進む予定で、夏に海外機関に渡航し、分析の打ち合わせ、試料のサンプリング、論文執筆を進める。その他、樹脂固定の作業ができる段階になり次第薬品を購入する予定であり、炭素年代の測定や分析器具購入などとあわせて相当額の使用になると考えられる。
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