2016 Fiscal Year Research-status Report
地域単位での災害時医療継続マネジメントシステムの推進に必要な教育項目の導出と実証
Project/Area Number |
16K16360
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
梶原 千里 早稲田大学, 理工学術院, 助教 (70707835)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 災害医療 / 事業継続 / 教育・訓練 / 医療の質 |
Outline of Annual Research Achievements |
自然災害の多い我が国では,災害時の事業継続性の向上が喫緊の課題である.災害時の医療の継続性を高めるには,関連組織の連携が不可欠であり,地域単位での事業継続マネジメントシステム(地域BCMS)の構築が急務である. 従来研究にて,地域BCMSモデルの開発に向け,医療の継続のために,発災直後に関連組織が連携して果たすべき機能を明らかにしたが,その機能を達成するための地域BCMSの実装には至っていない.その実装のためには,関連組織の職員に地域BCMSの教育をすべきであるが,その教育項目は明らかでない.本研究では,災害時の医療の継続のために,関連組織が地域的な連携で果たすべき機能を明らかにし,その機能を,教育項目を導出する根拠として活用し,地域BCMSの導入・推進に必要な教育項目を導出することを目的とする. 2016年度は,教育項目を導出する基盤となる,災害時に医療を継続するために果たすべき機能を精緻化した.まず,過去の災害記録の調査等により,災害時の医療ニーズと関連組織が地域的な連携で果たすべき機能を抽出した.次に,それらの時系列的な変化を分析して,機能が大きく変わる段階でフェーズを分けた.その結果,7つのフェーズに分けることができた.最後に,各機能を果たす組織を特定し,その対応関係を○等の印を用いてマトリクス形式で記した機能組織構造関係表をフェーズ毎に作成した.機能組織構造関係表の妥当性を検証するため,2016年4月に発生した熊本地震で災害医療に携わった医師2名および熊本県庁職員へインタビュー調査を行い,災害医療対応の秀逸点,問題点を抽出し,関係表の機能,組織と比較した.その結果,大きな抜け漏れがないことが明らかとなった. 現時点で全フェーズの機能組織構造関係表を作成できていないため,早急に作成する.また,これを基盤とし教育項目を導出する.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の重点課題であった,医療の継続のために,関連組織が連携して果たすべき機能を明らかにすることができた.阪神・淡路大震災や東日本大震災といった過去の災害記録の調査により,災害時の医療ニーズとそれに対応するために果たすべき機能を抽出した.また,機能の時系列的な変化を分析し,7つのフェーズに分け,フェーズ毎に機能を精緻化できた.さらに,同記録の調査より,各機能を果たす組織を特定し,各フェーズの機能組織構造関係表を作成した.関連組織は,過去の災害の経験から災害支援チームが増えるなど変化が大きいため,2016年4月に発生した熊本地震で災害医療に携わった組織を,関係者へのインタビュー調査により明らかにし,機能組織構造関係表に反映させた. 一部のフェーズの機能組織構造関係表の作成ができていないが,熊本地震の災害医療対応の秀逸点,問題点を調査し,導出した機能,組織の妥当性を検証することまで実施できたため,おおむね順調に進展していると考えている.今後も,過去の災害記録の調査および共同研究先との議論を重ね,今後の研究計画を着実に進めていく.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度,一部のフェーズの機能組織構造関係表を作成した.次年度は,まず,すべてのフェーズの機能組織構造関係表を完成させる.今年度の作成方法を踏襲し,他のフェーズの関係表も作成する. 次に,機能組織構造関係表を基盤とし,地域BCMSの導入・推進に必要な教育項目を導出する.具体的には,従来研究(※1) の方法を適用し,1.地域BCMS運用のために関連組織職員が習得すべき能力,2.能力を習得し,機能を果たすための教育項目を導出する.例えば,ある病院が「他病院へ患者を搬送する」という機能を果たすには,他病院へ患者の受入を要請する必要がある.関係表では,この機能に関連する組織として患者を送る,および,受け入れる医療機関が挙がり,他組織への要請という印がつくはずである.そこで,これらの組織に対し,搬送前に交換すべき情報等を教育する必要があり,これが教育項目となる.同様に,各フェーズの関係表を活用し,各能力,機能に対して必要な項目を分析して,各フェーズで果たすべき機能の変化に紐付けて教育項目を導出する.最後に,能力,機能,教育項目の対応関係がわかるように整理し,教育項目一覧表を作成する.教育項目の抜け漏れを確認するため,災害医療の経験者複数名に基盤と一覧表を提示し,機能の達成に必要な教育項目が導出されているかどうかの意見を収集し,それに基づき改善する.
※1: 梶原千里,棟近雅彦,金子雅明,佐野雅隆,“医療安全教育項目一覧表の提案”,「品質」,Vol.42,No.3,pp.106-117,2012
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Causes of Carryover |
災害時の医療を継続するために果たすべき機能を抽出するために,過去に大規模な災害が発生した,兵庫県,宮城県,岩手県等へ訪問し,災害時の対応を調査する予定であった.しかし,内閣府の阪神・淡路大震災教訓情報資料集などの災害対応記録を閲覧することが可能であり,かつ,詳細な情報まで記述されていたため,該当地域への訪問が予定よりも少なくなった. また,災害拠点病院である共同研究先(福岡県,埼玉県,宮城県)へ訪問し,災害医療対応についてインタビュー調査を実施する予定であったが,研究先の都合により,その実施が困難となった.そのため,日程の再調整を行い,実施時期を延期することとなった.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
共同研究先への訪問日程を再調整し,災害拠点病院における災害医療の対応のあり方を調査する.そのための旅費として使用する.また,まだ紙媒体および電子媒体での災害対応記録が少ない,東日本大震災や熊本地震における災害対応の記録を調査するための旅費も計上する.さらに,今年度に明らかにした,機能組織構造関係表の導出方法をまとめ,国際学会等で発表する予定である.そのための旅費,参加費も計上する.
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