2017 Fiscal Year Research-status Report
地域単位での災害時医療継続マネジメントシステムの推進に必要な教育項目の導出と実証
Project/Area Number |
16K16360
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
梶原 千里 早稲田大学, 理工学術院, 助教 (70707835)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 災害医療 / 事業継続 / 教育・訓練 / 医療の質 |
Outline of Annual Research Achievements |
自然災害の多い我が国では,災害時の事業継続性の向上が喫緊の課題である.災害時の医療の継続性を高めるには,関連組織の連携が不可欠であり,地域単位での事業継続マネジメントシステム(以下,地域BCMS)の構築が急務である. 従来研究にて,地域BCMSモデルの開発に向け,医療の継続のために,発災直後に関連組織が連携して果たすべき機能を明らかにしたが,その機能を達成するための地域BCMSの実装には至っていない.その実装のためには,関連組織の職員に地域BCMSの教育をすべきであるが,その教育項目は明らかでない.本研究では,災害時の医療の継続のために,関連組織が地域的な連携で果たすべき機能を明らかにし,その機能を,教育項目を導出する根拠として活用し,地域BCMSの導入・推進に必要な教育項目を導出することを目的とする. 平成29年度は,昨年度に導出した機能組織構造関係表を基盤とし,従来研究(梶原千里ら,“医療安全教育項目一覧表の提案”,「品質」,Vol.42,No.3,pp.106-117,2012)の方法論を踏襲して,地域BCMSを導入・推進するための教育項目を導出した.まず,機能達成のために関連組織の職員が身につけるべき能力を検討した.その結果,基本概念,マネジメントシステム,手法,運用技術を観点として,6つの能力を導出した.次に,この能力を身につけ,機能組織構造関係表で明らかにした機能や活動を果たすために必要な教育項目を大まかに検討し,教育項目の全体像を明らかにした.結果として,計27項目を導出し,それを大項目と呼ぶことにした.その際,地域BCMSの活動を平常時から行うものと,発災してから行うものに分け,さらに,後者はフェーズごとに整理した.これらの活動に対応付けて,教育項目も並べ替えた.最後に,大項目を中項目,小項目へと具体化する形で展開し,教育項目一覧表を作成した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請時の研究実施計画通り,平成29年度は地域BCMSを導入・推進するために関連組織の職員が身につけるべき能力を明らかにし,その習得に必要な教育項目を列挙して,一覧表を作成することができた.従来研究を踏襲して教育項目を導出したが,従来研究で対象としていた,平常時に行う医療安全マネジメントとは異なり,災害医療はフェーズによって果たすべき機能が変化するという特徴がある.この特徴を考慮し,平常時,発災時の活動を分け,さらに発災時はフェーズごとに並び替え,それに紐付けて教育項目を整理した.この考え方は従来方法になく,新たに得られた知見である. このように教育項目一覧表は作成したものの,医療従事者複数名に機能組織構造関係表と一覧表を提示し,機能の達成に必要な教育項目が導出されているかどうかの意見の収集は,まだ一部しか実施できていない.また,前年度からの課題であった一部のフェーズの機能組織構造関係表の作成もまだ完了していない.したがって,「おおむね順調に進展している」を選択した. 今後も,過去の災害記録の調査および共同研究先との議論を重ね,研究計画を着実に進めていく.
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Strategy for Future Research Activity |
まず,すべてのフェーズの機能組織構造関係表を完成させる.作成方法は平成28年度に明らかにしているため,それに基づき作成する. 次に,複数の医療従事者に機能組織構造関係表と一覧表を提示し,機能の達成に必要な教育項目が導出されているかどうかの意見を収集し,それに基づき改善する. 最後に,平成29年度に導出した教育項目を用いて連携内容と各組織の役割を中心に対象者を教育し,その有効性を検証する.次の方法で教育の実施と有効性の確認を行う. 1) 川口市周辺地域の関連組織にて,教育項目一覧表を活用し,教育を実施する.関連組織の職員に対し,一覧表の一部の教育を行う.マネジメントシステムの専門家である研究者らと,川口市立医療センターの医療従事者が講師を担う.実施回数は,座学講義の場合は1ヶ月に1回(2時間),実動訓練の場合は2ヶ月に1回(半日から1日)程度を予定している.また,受講者数は1回につき20名程度を想定しているが,これは教育の内容,規模により異なる. 2) 実施した教育の有効性を検証する.本研究では,受講者の教育に対する満足度(レベル1),理解度(同2),行動変容度(同3)を測定する.満足度はアンケートで測る.理解度は従来研究(Takeyuki Goto et al.,“A study on the measurement method of effect for healthcare-safety-education”, 「Total Quality Science」,Vol.1,No.1,pp.41-51, 2015)を適用し,用語の定義等の理解度を測るテストを行う.行動変容度は教育後に演習を行い,その際の受講者の行動を記録する.さらに,1)の機能を効果的に達成できたことを測定する指標(対策本部立ち上げ時間の短縮など)を挙げ,それを測るためのデータを収集し,比較する.
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Causes of Carryover |
平成29年度に,導出した教育項目一覧表の中からひとつの項目を選択して教育を実施する予定であったが,対象組織である研究先の都合により,次年度に延期となった.そのため,教育の実施に必要な物品の購入や,教育の結果を整理する研究協力者への謝金が発生しなかった. 平成30年度は,導出した教育項目の有用性を検証するために,開催日を調整し,教育を実施する.そのための必要物品の購入や,教育の効果測定に必要なデータ(受講者の行動の記録など)の収集,解析を行う研究協力者の旅費,謝金に使用する.また,過去の災害医療対応を調査し,必要な教育項目が含まれていることを確認するため,東日本大震災や熊本地震における災害対応の記録を調査するための旅費も計上する.最終年度であるため,研究成果を国際学会等で発表するための旅費,参加費も計上する.
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Research Products
(10 results)