2016 Fiscal Year Research-status Report
"Body-on-a-chip"の実現に資する血管網による組織統合法の開発
Project/Area Number |
16K16386
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
梨本 裕司 京都大学, 工学研究科, 特定助教 (80757617)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | Body-on-a-chip / Organ-on-a-chip / Microfluidic device / 血管 / 組織培養 |
Outline of Annual Research Achievements |
臓器のモデルを並べ,1枚のチップに生体を再現する”Body-on-a-chip”は,創薬の効率を上げるツールとして有望である。しかし,現行法では,臓器間はシリコンや樹脂など,生理的に不活性な管路で結ばれており,本来の臓器間の連絡通路,すなわち,“血管”が有する,生化学的な機能(管路パターンの最適化,透過する分子の選択性等)は欠落している。本研究では,血管による臓器モデルの統合技術を開発することで,臓器に合わせた供給・排出経路,および血管壁での選択的な物質授受の再現すること目的とした。研究計画全体としては,Body-on-a-chipのモデルとして,3つの臓器の統合を行う予定であるが,2016年度は特に,肺,癌組織への血管誘導を試みた。 1) 肺繊維芽細胞,血管内皮細胞から構成した細胞凝集塊(直径500~700 マイクロメートル程度)をマイクロ流体デバイス内に導入し,別途導入した血管内皮細胞との相互作用を規定することで,肺の間質組織モデルへ血管構造を導入することに成功した。この血管は,細胞と同程度のサイズ(直径1~10マイクロメートル)のビーズが通過可能であり,本血管を介した細胞の出入りが可能であることが示唆された。 2) 1)で開発した技術を基に,乳癌組織への血管導入条件の設定を行った。乳癌組織モデルの構築条件の探索を行い,乳癌組織に細胞,薬剤が通過可能な,十分な内径を有する血管を誘導することに成功した。この血管が癌組織の成長に有効であることを確認する目的で,この血管とシリンジポンプを接続し,継続的に培養液を導入,長期的な培養を試みた。結果,生体内に類似する活発な血管形状の変化(血管径の拡大,不要な部位の血管の消失)が観察された。基礎実験では,癌組織自体の活発な拡大が観察されており,構築した血管が癌組織を栄養していることが示唆される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本申請で鍵となる,血管誘導技術の基礎検討(達成点1)),およびそれを応用した他の組織への血管誘導を達成した(達成点2))。骨髄組織への血管誘導は未だ検討中であるものの,血管を誘導した組織の灌流培養は予定を前倒しして取り組んでいる。このことから,プロジェクトは概ね順調に進展していると考える。以下,それぞれの達成点を述べる。 達成点1):本研究の基盤となる,組織への血管誘導技術の基礎検討が終了した。即ち、マイクロ流体デバイス内で,組織モデルと血管内皮細胞の相互作用を制御し,組織モデルへ血管を誘導するためのノウハウを確立した。具体的には,培養液の交換頻度や培地の組成,デバイス内のコーティング条件を検討することで,安定的に新生血管を組織モデルに誘導可能であった。誘導した血管は管腔を有しており,マイクロビーズや薬剤(Calcein AM)などを,拡散よりも有意に早くスフェロイドに送達できることを示した。 達成点2): 1)で開発した技術を基に,乳癌組織への血管導入条件の設定を行った。乳癌組織モデルの構築条件の探索を行い,乳癌組織に細胞,薬剤が通過可能な,十分な内径を有する血管を誘導することに成功した。この血管が癌組織の成長に有効であることを確認する目的で,この血管とシリンジポンプを接続し,継続的に培養液を導入,長期的な培養を試みた。結果,生体内に類似する活発な血管形状の変化(血管径の拡大,不要な部位の血管の消失)が観察された。基礎実験では,癌組織自体の活発な拡大が観察されており,構築した血管が癌組織を栄養していることが示唆される。
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Strategy for Future Research Activity |
1) 骨髄組織への血管誘導:当初の計画で検討予定であった,骨髄組織モデルへの血管誘導技術の開発を行う。2016年度では,骨髄間葉系細胞(HS-5, HS-27A)などを利用した細胞塊に対して,血管誘導を試みていたが,十分な血管構造を骨髄組織内に構築するに至らなかった。次年度では,骨髄組織モデルを構築するための細胞種,細胞組成を再検討し,骨髄モデルの血管化を検討する。 2) 構築した血管網を利用した灌流培養条件の確立:2016年度,組織モデルへ導入した血管は,何れも生体内と同様,管腔を有し,内部に溶液を導入可能であることを確認している。次年度では,構築した血管と外部のポンプを接続し,血管を介した組織モデルへの継続的な栄養供給を行うことで,生体を模した循環システムを確立する。構築した血管網が機能していることを示すため,血管網の有無で,各組織の増殖活性がどのように変化をするかを評価する。また,血管を経由した薬剤投与システムの応用として,抗がん剤を血管内に導入した際の癌組織の応答を評価する。 3) 臓器モデルの統合:1), 2)のシステムが整い次第,全ての組織を統合し,各臓器間の相互作用を評価する。癌組織からの腫瘍細胞は,原発組織から,血管内に移動し,血流を通じて,他の組織に生着する(転移)ことが知られているが,生体外で,この転移過程を一貫して観察可能な系は報告されていない。本研究では,特に転移が起こりやすいとされる,骨髄,肺の組織と癌組織を共通の血管網で培養することで,癌の転移過程をつぶさに評価可能な生体外モデルを確立する。
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Causes of Carryover |
購入予定であった,細胞機能評価用の試薬(細胞増殖,細胞死を評価するための抗体)に関して,評価委託機関が所有する試薬で代替可能であることが分かり,購入を見合わせたため,当該助成金が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
確保できた本助成金を利用し,構築したデバイス内における細胞機能を更に詳細に評価するための試薬購入,例えば,血管構造の強度を評価するための,細胞間接着タンパクの免疫染色用の試薬購入に充て,本プロジェクトの学術的価値を高めるために有効利用していく。
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Research Products
(10 results)