2016 Fiscal Year Research-status Report
心筋細胞発生過程において恒常的な収縮の維持に関わる要素の探求
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16K16393
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
佐野 ひとみ 慶應義塾大学, 環境情報学部(藤沢), 講師 (70584019)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 代謝シミュレーション / 数理モデル / ミトコンドリア / 解糖系 |
Outline of Annual Research Achievements |
心筋細胞の発生過程では,イオンチャネルの量的・質的変化,Ca(2+)動態に関わる筋小胞体(SR)とT管構造の変化,エネルギー産生機構(好気・嫌気代謝の割合等)の変化が起こる.胎生期から新生仔期を経て,成体に至るまでの過程で,各要素が収縮に対する役割を変えながら,常に拍動を維持する必要があり,いずれの要素・相互作用の破綻も,正常な収縮に支障を来す.要素間の相互作用が発生過程の如何なる段階でも正常に制御されることが重要だが,多くの実験データは代表的な発生段階における単一の要素に着目した記述・考察に留まっている.申請者は,包括的心筋細胞モデルを活用してイオンチャネルの量的変化を表現し,胎生初期段階の自発興奮,及び後期段階から新生仔期における活動電位波形の変化をコンピュータ・シミュレーションにより再現した.本研究では,胎仔期と成体における代謝動態を再現するため,数理モデルの拡張とパラメータの実装を行った.胎仔期と成体のモデルではATP産生に関わる解糖系,ミトコンドリアの電子伝達系,クレアチンリン酸分解のバランスが異なる.この違いにより,胎仔期モデルと成体モデルでは解糖系の中間代謝物の濃度が異なる値で定常に至ることを示した.シミュレーションで示された濃度の違いは,実験的にそれぞれの濃度を測定した文献データと定性的に一致した.また,低酸素環境に晒すシミュレーションを行った結果,胎仔期の心筋細胞において(1)グリコーゲン濃度が高い,(2)解糖系上流の酵素活性が高い,(3)総クレアチン量が少ない,という3つの特徴がいずれも低酸素環境における収縮力の維持に寄与することを示した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
胎仔の心筋細胞では,ミトコンドリアが未発達でATP産生は解糖系に依存しており,細胞内グリコーゲンが成体の10倍程度存在するなど,成体とは異なる特徴を有している.胎仔期の心室筋細胞は酸素供給が低い環境で機能しているため,細胞を低酸素状態に晒しても,細胞内ATP濃度を成体よりも長時間維持できる.これらの特徴を考慮した数理モデルが完成し,国際学術論文誌に発表した.
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Strategy for Future Research Activity |
国際学術論文誌に発表した数理モデルを基盤とし,代表的な段階における「スナップショット」に留まらず,全ての要素における量的・質的変化の組合せを再現し,発生過程を連続的に捉えたシミュレーションを行う.
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Causes of Carryover |
本年度の研究計画は数理モデルの構築が主だったため、大規模なシミュレーションに必要な計算資源の購入に至らなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
既存のモデルを活用したシミュレーションを行うための計算資源を購入する.
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Research Products
(5 results)