2017 Fiscal Year Research-status Report
生体画像の統計的性質と医師の叡智を統合した脳疾患自動検出技術の開発
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16K16407
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山本 詩子 京都大学, 情報学研究科, 特定助教 (70707405)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ラベリング / 領域分割 / MRI / ニューラルネットワーク / スパースモデリング / ボルツマン機械学習 / ベイズ推定 / 信念伝播法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、生体のMRI画像が持つ統計的な性質と、臨床で診断をする医師の知見を統合して利用することにより、疾患の自動検出によって医師をサポートすることを目的としている。MRI画像は生体内の組織構造を反映したコントラストを持っており、医師はそのコントラストを見て正常な構造とは異なる部分を見つけ出す。医師の頭の中には、正常な組織構造を写した画像がどのようなものであるかというデータベースのようなものが長年の臨床経験から構築されており、コントラストが正常からどのように外れると異常であるかを瞬時に判断していると考えられる。組織の異常は画像のコントラスト、すなわち輝度値情報に反映されるのであるが、コンピュータが輝度値情報のみに基づいて異常を検出することは、生体の持つ個体差により非常に困難である。本研究課題では、MRI画像の輝度値情報からコンピュータが異常を検出できるように、医師の知見を画像に組み込むことに取り組んでいる。 研究期間の二年目である本年度は、昨年度開発した脳画像のラベリング手法に加えて、ニューラルネットワークを用いた方法を導入した。畳み込みニューラルネットワーク(CNN)は画像認識の分野で近年発展めざましく、MRI画像にも有効であると考えたからである。さらに、ラベリングを行う際に問題となる、MRI装置間での画像輝度値のずれをCNNによって調整する手法の開発にも取り組んだ。また、本年度予定していたスパースモデリングを用いた推定については、MRI装置を用いて取得した生体のスペクトルデータから画像を再構成することで実験的に手法開発を行った。 これらの結果を国内学会では生体医工学会および磁気共鳴医学会、国際学会ではQuantum Machine Learning & Biomimetic Quantum Technologiesにて発表した。参加学会では、近い分野の研究者と今後の研究の進捗に寄与する有意義なディスカッションをすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、昨年度開発したラベリング手法を発展させる手法開発を継続する一方で、実際の被験者画像を取得し解析することにも重点を置いた。研究協力者の協力を得て被験者の脳画像を約60名分取得した。実データを扱う際には形式の統一や例外処理などのため手作業が増え、手法開発以上に時間を要する作業が多くなったが、医療応用を目指す研究は実データを扱わずしては実現できないため、実データの解析処理は重要である。 実データでは、MRI装置ごとの磁場強度の違いや、装置のメーカーの違いによって、撮像で得られる画像のコントラストが微妙に異なることが分かった。特に脳領域ラベルの境界に当たる部分に装置ごとの画像の違いが現れやすい。装置ごとにコントラストに違いがあると、画像の輝度値を頼りに脳画像から異常を自動検出することが困難になる。 そこで装置ごとの画像のコントラストを合わせることに取り組んだ。MRI装置は計測を行うとき、画像自体ではなく画像とフーリエ変換の関係にある空間での信号を取得する。この信号から画像に変換する際の、画像を見やすくするためのノウハウがメーカーごとに異なることが知られている。従って、取得信号ではなく画像化されたもののみを利用して画像のコントラストを調整した。これにより装置間で画像のコントラストをある程度の調整が可能となった。 また、スパースモデリングを用いた推定については、癌細胞のあるマウスのMRI画像を用いて、生体内にある物質の分布をスパース推定することで、癌細胞の位置を特定する手法の開発に取り組んだ。ヒトではなくマウスの画像を用いたのは、癌細胞を手術で特定の場所に埋め込むことにより、癌細胞の位置を予め正確に知ることが出来るからである。本手法により不足したデータからでも癌細胞の位置を高い精度で検出することが可能となった。 以上の点において、本研究課題はおおむね順調に研究が進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は本研究課題の最終年度であるため、前年度までに開発した手法をヒト脳の異常検出へと発展させる手法開発に取り組む。同時に、実データ特有のデータのばらつきに起因する問題の解決にも取り組む。画像の統計的な性質を利用する方法はデータのばらつきに強いものの、大きなばらつきは誤認識に繋がる可能性がある。 医師がMRI画像から目視により異常を見つける時、医師は画像全ての輝度値を比較評価しているわけではない。画像全体の印象から見るべき場所を絞り、撮像時のアーチファクトか異常かを判断しているのである。この医師の経験から得られた感覚に近い異常検出を行うためには、単に全ての輝度値の比較評価を行うのではなく、領域の中で注目する部分や輝度値の特徴を必要十分な数に絞って行うことが重要であると考えている。これは、輝度値の異常を抽出するために必要な領域分割およびラベリングにも組み込む必要がある。前年度に開発したスパース推定の手法を応用して、考慮する画像輝度値や空間構造を小数に絞り、医師が注目する特徴に基づいてラベリングをすることによって医師の感覚に近い領域分割およびラベリングができる手法へと改良を図る。 また、実データ特有の問題の解決については、MRI装置間の画像のコントラストを合わせる手法の開発を継続する。近年画像認識の分野で発展のめざましい畳み込みニューラルネットワークを利用して高精度にMRI画像の変換を行う。前年度にある程度のコントラストを異なる装置間で合わせることに成功したが、画像が与える僅かな印象の違いに課題が残っている。医師が感じる印象の違いは、画像の輝度値の違いに起因しているはずである。MRI画像を読影する医師の目は経験によって非常に訓練されており、僅かな違いを見分けることができる。実データ特有の問題を解決してこそ、画像から異常を自動検出する手法を臨床へ応用する糸口が見えてくる。
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Causes of Carryover |
本年度に得られた研究成果について内容をまとめて論文誌への投稿を行う予定であったが、研究代表者が所属機関の研究プロジェクトの都合により所属研究室を異動することになったため、所属機関の研究プロジェクトに関する研究のまとめおよび引っ越し作業などにより論文誌への投稿を行う時間を確保出来なかった。したがって、論文投稿に関わる費用を次年度に繰り越す必要が生じた。 本年度に得られた研究成果について、内容を精査した上でまとめて論文誌への投稿を行う。次年度に繰り越す助成金は当該論文の投稿に関わる費用に使用する予定である。
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Research Products
(5 results)