2017 Fiscal Year Research-status Report
認知症ケアにおける遠隔操作アンドロイドの社会化と有効性に関する臨床哲学的研究
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16K16480
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
山崎スコウ 竜二 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 助教 (10623746)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 認知症 / BPSD / ロボットメディアコミュニケーション / NIRS / ロボット回想法 / 対話誘導 / 技術倫理 / ポスト現象学 |
Outline of Annual Research Achievements |
認知症高齢者の介護を困難にする要因として、不穏行動等の認知症の行動・心理症状(BPSD)が挙げられる。適切な語りかけで収まる場合があり、BPSD改善に向けたフィールドワークを進めた。認知症高齢者の不安に対処するため、ロボットメディアの語りかけにより、どれほど認知症高齢者の注意を引き付けることができるのか、どの条件で行う対話技術が有効であるのかを明らかにすることが課題となる。これらの実証的解明を目的に特別養護老人ホームで実験を行った。パイロットスタディとして認知症高齢者少数名を対象に、人型ロボットの簡易版で容易く抱きかかえて話せるコミュニケーションメディアを用いて以下の条件で比較検討を行った。1)音声なし、2)ラジオによる一方的な話、3)日常会話、4)回想を促す対話、以上4条件である。結果、全体として被験者がメディアと相互作用する集中した時間は、条件4の回想条件が他より2倍以上長く注意を引き付けることが示され、発言数は1.5倍以上に及ぶことが確認された。結果から個人史に関連する話題を適切に提供することにより、ロボットメディアを用いてコミュニケーションに肯定的影響を及ぼすことが示唆され、BPSD改善への寄与が見込まれる。個人別の結果では、日常会話または一方的な語りの条件で集中や発話量が増すこともあり、対象者のタイプ別に最適な条件を特定する課題が見出された。高齢者の情動や意思、行動を制御するメディアの誘導的能力を発揮させるにつれて、その影響力について誘導型技術の道徳的側面に分析が必要とされる。技術的影響の調整が困難な認知症の人の意思決定に関わる誘導技術の介入は道徳的にどのように正当化されうるのか、また意思誘導的なメディア技術の道徳性がいかに民主的構造を持ちうるのか、これらの課題へのポスト現象学等のアプローチについて学会発表の場やオーフス大学、ヘルシンキ大学の研究者と議論を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究代表者の所属変更に伴ってフィールド実験の予定を順延、再調整しながら実験を行ってきたことによる。パイロットスタディによって回想に結び付いた個人の情報を活用する重要性が明らかになってきたことから、特にロボットの遠隔操作の利点を活かした対話システムの開発推進が課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
ロボット操作者による高齢者の対話活性化のメカニズムを探る中、対話誘導の成否は操作者個人の力量、暗黙的な知識やスキルに大きく依存することが課題となり、焦点化して取り組む必要が生じた。健常高齢者にとどまらず認知症高齢者を対象とした遠隔対話によるアプローチを検証してきたが、今年度はさらに認知症のタイプや重症度などの特性に合わせたBPSD対応の対話モデルを開発するとともに、中長期的なフィールド実験を通してロボットメディアの機能と効果を検証する。対話誘導法の確立を目指し、操作者向けのインターフェイス開発と教育的効果の検証、誘導技術とユーザの関係的自由をめぐる倫理的課題の理論的解明を進める。
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Causes of Carryover |
次年度使用額はフィールド実験の実施に伴う調整のため生じた。 使用計画として主に実験実施、資料収集、国内外の研究動向調査および発表に用いる。
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