2016 Fiscal Year Research-status Report
歩行における感覚情報に基づく位相調節とその神経機構の解明
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16K16482
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
藤木 聡一朗 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (90770173)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 歩行 / ラット / 神経筋骨格モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,歩行環境の急激な変化に対応するために瞬時に実行される運動指令の調節と,変化した環境下で長期間歩行し続けることによる運動指令の緩やかな調整を行う神経機構の解明を目的としている.そこで,2つのベルトが左右平行に配置された左右分離型トレッドミルを用いて,左右非対称な歩行環境へと変化した直後の反射的なすばやい運動調整とその後に見られる学習的なゆっくりとした運動調整について調べた. 平成28年度はハーネスによって上体を支えられた健常なラットを対象に左右分離型トレッドミル上で後肢2脚歩行実験を行い,その時の左右の後肢の運動を計測した.1歩行周期中の立脚相の割合や左右脚運動間のタイミングの違い(相対位相)を調べたところ,ヒトを対象とした先行研究において示されている結果と同様な傾向が見受けられた.更に,歩行1周期ごとに正規化した股関節角,膝関節角,足関節角について特異値分解による解析を行った.左右対称な通常のトレッドミル歩行時と左右分離型トレッドミル歩行時の比較を行ったところ,運動の時間モードに違いが見られた.時間モードに対して,タイムウィンドの幅を変えずに開始点をずらして網羅的に相関係数を調べると,高い相関を示す点が存在し,時間モードの違いは位相の変化として表れているとの見解を得た.通常のトレッドミルにおいて速度を変えても時間モードの変化はほとんど見られなかったので,左右非対称な環境に特異的に表れていると考えられる. また,感覚情報に基づく運動指令の調整メカニズムについて数理的に理解をするために,神経制御モデルの構築を行い,ラットの筋骨格モデルを用いた数値シミュレーションを行っている.神経生理学的知見に基づいて脊髄レベル以下での運動生成と感覚情報に基づくすばやい応答(運動指令の位相調整)を表現した神経制御モデルの提案を行っており,計測データを再現するような結果が出つつある.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
特異値分解による解析から,左右分離型トレッドミルにおける運動調整は主に時間モードの変化,特に,位相の変化として表れていることが分かってきた.これは,運動指令の位相情報の調整が重要であることを示唆している.また,脊髄レベル以下を対象とした歩行の神経制御モデルを組み込んだラット神経筋骨格モデルによるシミュレーションにおいても,実際の計測データのすばやい運動調整を再現しつつある.したがって,運動計測と神経制御系の数理モデル化において,おおむね順調に進展している.
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Strategy for Future Research Activity |
小脳は運動学習と強い関連があると考えられており,その小脳の構造的な特徴として,小脳皮質の出力はすべてプルキンエ細胞によって担われているという点にある.プルキンエ細胞は,苔状線維‐平行線維から伝達される運動指令の遠心性コピー及び感覚情報と,登上線維から伝達される運動誤差情報の主に2つの経路からの入力が重要であると考えられている.登上線維から入力を受け取ると,プルキンエ細胞の活動に複雑スパイクが見られる. そこで,ラットが左右分離型トレッドミル上で歩行している時の,小脳のプルキンエ細胞の活動をテトロード電極によって計測し,歩行中のどのような運動状態の時にプルキンエ細胞に複雑スパイクがみられるのか,つまり,歩行環境が予想外に変化したときに自身の運動計画と実際の運動に基づく感覚との間の誤差をどのようなタイミングで検出しているのかを調べる予定である.このことによって,どのタイミングの運動の変化・誤差を重要な情報だと脳内で捉えられているのかを明らかにする.さらに,この結果を基に,どのような情報や指標を基に運動学習の数理モデルを構築するのかを検討する.提案した神経制御モデルを組み込んだ筋骨格モデルのシミュレーションにより,実際のラットで計測されたゆっくりとした運動調整が再現されるのかを検証する予定である.
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Causes of Carryover |
実験器具用の電子部品の購入を予定していたが,在庫がなく年度内の納入が不可能だったため未使用額が生じた.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
未使用額は当該部品の購入に充てる予定である.
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