2017 Fiscal Year Research-status Report
運動の好き嫌いを決める脳神経基盤の解明―運動は報酬となり得るか?―
Project/Area Number |
16K16485
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
山中 航 順天堂大学, スポーツ健康科学部, 助教 (40551479)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 運動 / 報酬 / ドーパミン / 線条体 / 条件づけ / ラット / 回転ホイール / 運動選好 |
Outline of Annual Research Achievements |
運動の好き嫌いはなぜ生じるのか?本研究はその脳内基盤として中脳ドーパミン細胞に注目し、「運動ができる」という情報が報酬となり得るのかどうかを明らかにすることを目的とした。平成29年度においては、動物(ラット)が運動をすることを好むかどうか定量的に評価するための新しい行動課題の開発を引き続き行った。当初の計画で立案した行動課題において動物の運動選好行動を定量的に観察することができたが、運動選好を示さなかった動物の行動から、運動ホイールに対して興味を示さないというよりも、前肢だけを使用してホイールを回したり、部屋と部屋の境目の壁を囓る行動を示したりと、他の誘因の影響がノイズとなる問題が新たに生じた。また動物の運動選好を測定する指標として場所選好テストを応用した方法を用いたが、この場合音刺激を用いた条件づけ課題への発展が難しいという問題があった。そこでこれらの問題を除外するために、(1)動物が運動をするという選択肢以外の行動をできるだけ制限する、(2)動物が自分で運動できる/できないを操作できるようにするためのオペラント課題を導入する、という二点に着目し研究を推進した。具体的には、ブレーキ機構付き回転ホイールケージを新規設計・作成し、二種類の異なる音刺激と回転ホイールのブレーキOFF(運動試行)またはONになる(運動不可試行)パブロフ条件づけが可能になり、さらにリトラクタブルレバーを用いて動物自身に回転ホイールのブレーキON・OFFを操作できるようにした(オペラント条件づけ)。現在、この新しい装置を用いて動物の行動を実験・解析中である。また平成30年度に行う予定であるドーパミンブロックによる因果関係の確認であるが、こちらについてはターゲットトキシンの線条体注入実験を行い、免疫組織化学的にドーパミン細胞を選択的に脱落させることが予備的に確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定では平成29年度から実際にドーパミン記録をスタートさせる予定であったが、その基盤となる行動課題において、予想外の動物行動(運動嫌いと解釈できる動物の行動が本当に運動嫌いかどうか現状の課題では測定が難しい行動)が観察されたため、運動選好評価のための実験装置の開発に注力した。研究計画調書の「研究が当初計画どおりに進まない時の対応」に記述したように、行動実験において動物が運動に対する選好を示すかどうかという問題は本研究のコアとなるデータであり、実験装置を改良して、より頑健な行動データを取得することが次年度の成果につながると判断した。結果として、新しい課題を導入したことで、より精細に動物の行動を測定できるようになり、説得力の高いデータが取得可能になったと考えられる。また、平成30年度の実験計画で行う予定であったドーパミンの因果的役割について検討するための実験において、ターゲットトキシンを用いた選択的脱落が予備実験として成功したことから、予定よりも進展した部分もあると考えられる。しかしながら、ドーパミン細胞の記録およびマイクロダイアリシスによる線条体ドーパミン放出量の測定までは進行しなかったため「やや遅れている」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度においては、新たに作成したブレーキ機構付きのパブロフ型・オペラント型の運動選好タスクシステムにおける動物行動(CUE信号に対する反応時間、運動ができる選択肢の選択率)を確立した上で、予測信号および運動中におけるドーパミン―線条体系の活動が「運動ができる」という情報に基づく報酬信号なのか、それとも運動そのものによって賦活化する運動信号なのか明らかにする。 (1) 動物の運動選好行動の定量化 (2) 予測信号および運動中に線条体ドーパミン放出量および中脳ドーパミン細胞の応答がどのように変化するか明らかにすること、 (3) 線条体におけるドーパミン信号伝達の阻害が課題中の行動にどのような影響を及ぼすか、 以上3点について重点的に進めていき、運動選好を支える神経基盤の解明に向けて本研究を発展させていきたい。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由として、動物行動の予想外の結果によって当初の実験計画よりも進捗がやや遅れていることが挙げられる。翌年度分として請求した助成金と合わせた使用計画については、平成29年度に購入予定であったマイクロダイアリシスおよびドーパミン神経活動記録に必要な消耗品および記録解析(オンラインでのスパイク波形分析)システム(増幅器、取り込み・解析用PC)の導入を検討している。
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