2018 Fiscal Year Research-status Report
運動の好き嫌いを決める脳神経基盤の解明―運動は報酬となり得るか?―
Project/Area Number |
16K16485
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
山中 航 順天堂大学, スポーツ健康科学部, 助教 (40551479)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 運動 / 報酬 / ドーパミン / 線条体 / 条件づけ / ラット / 回転ホイール / 運動選好 |
Outline of Annual Research Achievements |
運動の好き嫌いはなぜ生じるのか?本研究はその脳神経基盤として中脳ドーパミン細胞に注目し、「運動ができる」という情報が報酬となり得るのかどうかを明らかにすることを目的としている。当初の計画で立案した行動課題において動物の運動選好行動を定量的に観察することができたが、運動選好以外の誘因の影響がノイズとなる可能性があること、また音刺激を用いた条件づけ課題への発展が難しいという問題が生じたため、動物(ラット)が運動をすることを好むかどうか定量的に評価するための新しい行動課題装置の開発を行った。平成30年度においては、この新規開発した装置(特許出願中)を用いて、一つの回転ホイールのブレーキのON/OFFを非条件刺激(アウトカム;US)に、またその予測信号を条件刺激(CS)として取り入れたパブロフ型条件づけ課題の導入を行った。この課題では8 kHzの音刺激の後、回転ホイールのブレーキが解除される試行(Exercise trial)を設定した。その結果、ラットはトレーニング当初ではほとんどホイールを回転させなかったが、数日(5試行/日)のトレーニングによってホイール回転量が増加したことから、「運動ができる」ことをラットが学習したと考えられる。また、この課題中においてマイクロダイアリシスを用いて線条体ドーパミン放出量を計測した。その結果、安静時と比べ、運動中および予測信号提示中により高いドーパミン放出量が観察された。現時点ではまだ2頭のラットの結果であるため、追実験を実施し、再現性を確認する必要がある。これらの結果は「運動ができる」ことがドーパミン系を駆動し、運動に対するモチベーションに関与している可能性を示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度に報告したように、当初の予定では平成29年度からドーパミン記録をスタートさせる予定であったが、その基盤となる動物の行動課題を改良させる必要が生じた。研究計画調書の「研究が当初計画どおりに進まない時の対応」に記述したように、行動実験において動物が運動に対する選好を示すかどうかという問題は本研究のコアとなるデータであり、実験装置を改良して、より頑健な行動データを取得することが重要であると判断した。結果的に、新しい課題を導入したことで、より精細に動物の行動を測定できるようになり、説得力の高いデータが取得可能になったと考えられる。平成30年度は、新しく開発した行動実験課題中のドーパミンを測定することができたことは重要な成果ではあったものの、1年間の期間延長を申請することとなったため、当初の予定よりも「やや遅れている」と考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年度(最終年度)においては、本研究課題で新たに開発したブレーキ機構付きの運動選好タスクシステムにおける動物行動(CUE信号に対する反応時間、運動ができる選択肢の選択率)および予測信号および運動中におけるドーパミン―線条体系の活動記録のサンプル数を増やし、データの再現性を確認する。これらの行動およびドーパミン応答が「運動ができる」という情報に基づく報酬信号なのか、それとも運動そのものによって賦活化する運動信号なのか、あるいはその両方に対する応答なのか明らかにする。具体的には、(1) 動物の運動選好行動の定量化、(2) 予測信号および運動中に線条体ドーパミン放出量がどのように変化するか明らかにすること、(3) 線条体におけるドーパミン信号伝達の阻害が課題中の行動にどのような影響を及ぼすか、の3点について引き続き進めていき、動物の運動に対するモチベーションを支える脳神経基盤の解明に向けて本研究の成果をまとめていく。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由として、昨年度同様、動物行動の予想外の結果によって当初の実験計画よりも進捗がやや遅れていることが挙げられる。全体的に一年間の遅れが生じたため、最終年度を延長し、次年度使用額が生じた。使用計画については、マイクロダイアリシスおよびドーパミン神経活動記録に必要な消耗品および研究成果発表のための学会旅費や論文投稿費、それにかかる英文校閲費を検討している。
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