2019 Fiscal Year Research-status Report
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16K16503
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Research Institution | Osaka Seikei College |
Principal Investigator |
渋谷 郁子 大阪成蹊短期大学, 幼児教育学科, 准教授 (80616938)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 手指運動の不器用さ / 幼児 / 両手協調 / 道具操作 / 訓練プログラム / 実行機能 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、手指運動に不器用さのある幼児が、両手協調の方略を学ぶための訓練プログラムを確立することを目指すものである。そのため、両手協調に影響を与える技能的・認知的要因をそれぞれ調査している。今年度はこれまでに収集したデータをもとに、両手協調に影響を与える可能性のある実行機能(認知的要因)について研究した。幼児の実行機能の発達程度を把握することで、訓練プログラムの中で子どもに非利き手の動きを意識的に調節させる際に、効果の高い教示のあり方を検討することができる。 研究の成果は、令和2年2月に関西子どもの不器用研究会主催の公開研究会にて発表する予定であったが、コロナ感染防止のために急遽中止となったため、令和2年9月の日本教育心理学会第62回総会にて発表する。 この発表では、道具操作のパフォーマンスと実行機能との関連について,ハサミを操作する運動の正確さ・速さと実行機能の各課題との相関関係が検討されている。その結果、実行機能の各課題のうち,ハンドゲームとハンドテストの2課題の成功試行数が,直線課題の逸脱量と有意な負の相関を示した。ハンドゲームは優勢反応を抑制する力を,ハンドテストは手の動きを記憶して再現する力を,それぞれ測定している。ハサミ操作の逸脱量にはこれらが関連していることが示唆された。一方,実行機能のどの課題も,ハサミ操作の運動時間とは有意な相関を示さなかった。実行機能の観点から道具操作の支援・指導法を検討するにあたっては,まずは運動の正確さを高める方法に注目することが肝要だと考えられる。 また、訓練プログラムを構成する技能的要因についても検討を行っている。ハサミの操作を撮影したVTRをもとに、ハサミ操作が正確で速い群、正確で遅い群、不正確で速い群、不正確で遅い群、の4群に分類し、代表的な事例を取り出して、その動作の特徴を解析している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
両手協調に影響を与える技能的・認知的要因を明らかにするため、保育園・こども園の年長児クラスの子どもたちを対象として、(1)~(4)のデータを収集した。(1)ハサミ操作のパフォーマンス(基本、応用課題における逸脱量、運動時間)(2)ハサミを操作中の手指運動のVTR(前面、左面、右面の3方向より撮影)(3)実行機能の諸課題(葛藤抑制の指標としてハンドゲーム(Hughes, 1998),視空間性ワーキングメモリの指標として積み木叩き課題(K式発達検査)とハンドテスト(K-ABC),言語性ワーキングメモリの指標として数唱(K式発達検査)と単語逆唱(Carlson, 2002))(4)随意運動発達検査(手指の随意運動)
このうち、(1)と(3)(4)の関連については研究が終了し、一部は日本教育心理学会総会にて発表する。現在はこの結果も含め、これまでに収集したデータを結びつけて、ハサミ操作に関連する認知的要因を総合的に考察して論文を執筆中である。また、(2)については、今回収集したデータとこれまで収集したものを合算すると362名分のVTRの蓄積がある。ハサミ操作の逸脱量、運動時間の中央値を用いて、この362名を、ハサミ操作が正確で速い群、正確で遅い群、不正確で速い群、不正確で遅い群の4群に分類し、群間の違いを検討している。具体的には、各群より代表的な事例を取り出し、動作解析ソフトウェアを用いて、両手の調節過程の特徴を分析中である。この結果については、日本発達障害学会の研究大会にて発表する予定である。 以上のことから、道具操作に関わる認知的、技能的要因を明らかにしようとする試みは順調に進行している。今年は、これらの結果をもとに、訓練プログラムを立案し、ハサミ操作を苦手とする子どもに実施して、その効果を検討することにしている。
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Strategy for Future Research Activity |
道具操作に関わる認知的・技能的要因について、以下のようなことがわかってきている。 (1)認知的要因:ハサミ操作ともっとも明瞭な関連がみられているのは、形の理解・再現にかかわる発達である。このような理解は、課題図形の形状に関する情報を読み取り、ハサミの開閉角度や紙の向きなどを調節する際に役立つと考えられる。当初は短期の視覚的記憶とも関連しているのかと考えていたが、幼児を対象とした実行機能の調査の結果より、大きな影響はないことが示唆された。 (2)技能的要因:現在分析中ではあるが、ハサミ操作の円滑な遂行には、非利き手の調節過程が重要な役割を果たしていると考えられる。発達的には次の経過をたどると推察される。①紙を持つ非利き手を動かさずに、ハサミを把持する利き手を動かす。②紙を持つ非利き手を動かして、ハサミを把持する利き手をなるべく動かさない。③紙を持つ非利き手、ハサミを把持する利き手ともになるべく動かさない。③の段階に達すると、子どもは手を動かすのではなく、肩や肘、手首を動かすことで、紙の向きを変えるなどの調整を行っていると考えられる。
以上のことから、認知的要因と技能的要因を融合させた訓練プログラムを開発中である。第一に認知的要因の考察より、ハサミを操作する前に対象図形の形状を認識できるよう、対象図形を指でなぞったり、調節の必要な場所を絵で示した絵本を見せたりする支援を検討している。いずれも、対象図形の形状について、通常は暗黙的に理解していることを、明示化するというものである。第二に技能的要因の考察より、対象児のハサミ操作の発達に合わせて、課題遂行中の手の置き場所について、利き手のみ、非利き手のみ、あるいは両方を固定させるような支援を検討している。このようにして、運動器官の自由度を減じることで、自己調節がしやすくなる状態を作り出せると考えている。
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Causes of Carryover |
開催を予定していた研究会や実施を予定していた保育園での調査等が、コロナ感染予防によって中止になったため。
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