2019 Fiscal Year Research-status Report
東京オリンピック(1964年)のメディア経験と開発の記憶に関する歴史社会学的研究
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16K16531
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
高尾 将幸 東海大学, 体育学部, 講師 (60584381)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | オリンピック / 地域社会 / 市民意識 / 記録映画 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまで、本研究課題では1964年東京五輪の八王子市における自転車競技開催とそれに伴って制作された記録映画の分析を進めてきた。『オリンピックと八王子』(以下「毎日版」)、『私たちの八王子:オリンピックの記録』(以下「アマチュア版」)がそれにあたる。これまでの分析で「アマチュア版」では同イベントにおける「市民」の関りが強調されていたことが分かっている。本年度はその具体的な状況と歴史的背景に注視するよう努めた。 まず、指摘できるのが「美化運動」の高まりである。八王子市では植竹圓次市長による号令の下、「親切運動」という市民の道徳意識向上をねらった官製運動が企図され、そのなかで美化運動は重要な柱となっていた。1950年代ごろから、それまで地域経済を支えてきた織物産業が傾きかけるなか市長を務めた植竹は、市の財政問題を、積極的な工場誘致や衛星都市指定の取得で乗り切ろうと試みていたが、それに加えて新住民と旧住民の融和を、近代的な「市民意識」の涵養という形で実現しようとしていた。 また、1961年に植竹の発案で始まった「八王子市民祭」は、1964年には「オリンピック協賛第四回市民祭」と称して甲州街道で大々的に行われることになった。これが現在の「八王子まつり」へと繋がっているが、その過程で従来の土着の祭りが統合・吸収され、八王子市民の愛郷心を喚起する「近代的」なイベントへと変容を余儀なくされていった。 オリンピック開催は、以上のような地方行政の動きに正当性を与える格好の名目として機能していたことがわかった。 他方、毎日版ではそうした「市民」にフォーカスがあたらず、市内における真新しい工場での製造過程や、競技場建設現場での臨場感あふれる様子が、産業映画のような手法でおさめられていた。それは自治体や地元企業をクライアントとした「PR映画」の形で構想されたものであったと理解できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
学内の業務に追われ、最終年度に予定していた研究成果の発信ができていない。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度はこれまでの研究成果の発信に力を注ぐ予定である。国際学会での発表と書籍(共著)の刊行を予定している。
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Causes of Carryover |
2019年度に予定していた研究成果の発信ができなかったため、2020年度は残額の多くをそれに用いる予定である。
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