2016 Fiscal Year Research-status Report
腸内環境簡易評価システムの確立および走行運動が大腸環境へ与える影響の解明
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16K16610
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
萩尾 真人 東洋大学, 生命科学部, 助教 (00623927)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 腸内環境 / 腸内細菌叢 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、研究計画に挙げた「①単一試料からの高分離抽出法の確立、②T-RFLPによる腸内細菌叢簡易評価法の確立、③胆汁酸、短鎖脂肪酸、有機酸の高感度分析法の確立」に携わった。①に関し、予備検討ですでに可能であったラットの一塊の糞からの極性物質画分、非極性物質画分および糞層への分離が、より試料重量の低いマウスの糞においても可能であることが確認された。この時に使用する抽出溶媒は酢酸エチルと水、クロロホルムと水の組み合わせで高効率な分離が可能となることが明らかとなり特許の出願を行った(特願2017-011365)。②に関し、マウスの糞から抽出した全DNAの中から16S rDNAの特定領域(8F-1492R)に対するPCR増幅を行い、T-RFLPによる分析後、統計解析フリーソフトの「R」を使用したデータ解析を行う、といった腸内細菌叢簡易評価の一連の流れを確立することが出来た。当初より、あくまで菌の同定が目的ではなく、菌の存在量を加味した多様性を動物個体ごとに比較することが目的であり、菌叢の類似性から動物個体をグループ分けすることが可能となった。③に関し、検討の結果、当初想定したMRMモードによる胆汁酸検出が本研究で使用した質量分析計の特性から困難であることが明らかとなり、イオンモビリティを利用した検出に変更した。短鎖脂肪酸、有機酸は一部MRMモードによる検出が可能となったが、現時点ではその感度およびLCでの分離が十分でなく、さらなる検討が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の進捗状況は、「(2)おおむね順調に進展している。」と考えられる。研究計画の①および②に関し、まだ改善の余地はあるものの当初の予定を達成できた点、③に関し、当初の予想・予定通りの結果ではなかったものの代替案の検討を既に進めている点、が判断の根拠である。 ①二層の溶液層に分離することを目的とした、水と混和しない非極性画分用溶媒の選定では酢酸エチル、クロロホルムをはじめとした合計12種の有機溶媒を検討した。当初はクロロホルムのみを想定していたが、より回収効率の良い溶媒を選択決定した。さらに、分離した糞層からのキットによるDNA抽出効率を比較したところ、酢酸エチルの場合の方がより高純度で抽出できることが明らかとなった。 ②T-RFLPにおいて最終的に使用する機器であるジェネティックアナライザー(DNAシーケンサー)から得られるデータは各断片塩基長における検出強度である。この検出強度はあらゆる微生物由来の着目塩基長の総和であるため、検出塩基長の検出強度パターンを比較することで菌叢全体を比較することになると考えた。そのため、1塩基ごとに300 塩基までの検出強度をWard法によりクラスター分類することで動物個体をグループ分けすることが可能となった。 ③胆汁酸に関しては、MRMモードによる各胆汁酸の区別検出を試みたが、特に同一分子量の胆汁酸に関し、感度良く区別する質量分析計(MS)のチューニング条件決定に至らなかった。しかし上記のようにイオンモビリティで検出比較をしたところ、完全ではないが同一分子量胆汁酸を区別することが出来た。短鎖脂肪酸、有機酸はLCを通さない場合にはMSで検出できるものの、LCを介すると検出感度が極端に下がった。現時点では使用カラムの検討が必要であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、おおむね当初計画していた通りに研究を進めることができたが、本年度成果に関しさらなる改善の余地が残っている。 ①現時点では極性画分、非極性画分、糞層に分離し回収することが出来るが、さらにタンパク質も同一試料から分離回収することが出来ればより腸内環境評価に役に立つと考えられるため、検討したい。また、破砕担体の種類、数の組み合わせなどによる糞塊の破砕効率の検討を行うことでさらなる簡易化も目指したい。 ②T-RFLPの途中過程において制限酵素を使用するが、本研究では1種類のみ使用している(MSPI)。菌叢分類のさらなる精度向上のため、他の制限酵素も検討し、場合によっては複数の断片化DNA情報を使用することも検討したい。 ③胆汁酸に関してはイオンモビリティによるさらなる同一分子量区別精度の向上を、短鎖脂肪酸、有機酸に関しては最適分離カラムの検討およびガスクロマトグラフィーを使用することも視野に入れ検討を重ねていく。 以上のことを考慮しつつ、H29年度以降の計画を進める。①運動が腸内環境へ及ぼす影響、ならびに②運動による大腸癌リスク減少効果への腸内環境の関与解明を目指すが、前段階として食事成分が腸内環境、特に腸内細菌叢に及ぼす影響を、より細かいタイムポイントで経時的に追跡し腸内環境の変化タイミングなどを検討する。また、菌叢によるグループ分け以外にも代謝物との関連相関を含めた状態でのグループ分け手法の確立を目指したい。
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Causes of Carryover |
本年度は、研究課題がおおむね順調に進展したため、必要な試薬や実験器具を購入しても余剰金が発生した。本年度の研究内容が評価法の確立であり、繰り返し使用できる物品を多く利用したこと、フリーソフトによるパソコン上での検討が多かったこと、も理由であると考えられる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
ラット、マウス用運動走行ケージの購入、ラットもしくはマウス個体、および飼育用品、飼料の購入、T-RFLP用試薬の購入、MS解析関連試薬の購入に充てる予定である。
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