2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K16641
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
高嶋 一平 京都大学, 物質-細胞統合システム拠点, 研究員 (50769742)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 自己集合 / 細胞死抑制 / 細胞移植 / 細胞接着 / シンデカン / クラスタリング / 再生医療 |
Outline of Annual Research Achievements |
代表者らはインテグリンのリガンドを導入したアドへサミンを用いて、細胞表面のシンデカンとインテグリンのクラスターを促すことで細胞死を抑制することに成功した。細胞表面に存在するインテグリンは細胞種によって発現パターンが異なる。そこで、多様なインテグリンのペプチドリガンドを導入したアドへサミン誘導体(15種)を合成し、ヒト胎児プライマリー細胞(肝臓、副腎、肺、前立腺など)に対して細胞死を抑制するアドへサミン誘導体を抽出した。特に肝細胞において細胞死を効率よく抑制するアドへサミン誘導体を見出し、モデル動物への肝細胞移植を行った。しかし、肝細胞の移植に伴うアルブミン量の増加が認められなかった。その原因として、このアドへサミン誘導体を使用してもなお細胞生着率が低いこと、さらに移植した肝細胞が胆管細胞へ分化してしまったことが示唆された。 細胞生着率が低くなる要因として、ヘパラン硫酸に対するアドへサミンの結合力が低いことが考えられる。アドへサミンはピリミジン部位がπ-πスタッキングすることで自己集合して、ヘパラン硫酸と強く結合できる。現在の設計では、ピリミジン部位にペプチドリガンドを導入すると、ヘパラン硫酸への結合能が著しく低下してしまう(π-πスタッキングを阻害するためと予想する)。そこで、新たに自己集合性ペプチドであるフェニルアラニン連続配列を導入したアドへサミン (Adh-SFF) を設計した。本設計によってヘパラン硫酸との結合力が4倍程度向上する。加えて、Adh-SFFは思いがけず細胞死の抑制能も示した。これはインテグリンに対するペプチドリガンドを必要としない新たなメカニズムでの細胞死抑制が可能であることを意味する。蛍光イメージングや電子顕微鏡での検討の結果、Adh-SFFはシンデカンのクラスタリングを介して細胞死抑制能を高めている可能性が示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
合成したアドへサミン誘導体の細胞移植実験を行い、低い細胞生着率や細胞分化の問題を見出した。低い細胞生着率を改善するには、アドへサミン誘導体のシンデカンに対する結合能をさらに高める必要があると思われる。自己集合性ペプチド(FF)をアドへサミンに導入し、自己集合性を増すことによってシンデカンに対する結合能の向上に成功した(Adh-SFF)。さらにインテグリンを介さない別のメカニズムによって細胞死抑制が可能であることを新たに見出した。Adh-SFFによる細胞死抑制メカニズムはシンデカンのクラスターを介した細胞内シグナリングによるものと予測している。シンデカンはすべての細胞において多く発現しており、汎用性の高い細胞死抑制が可能であると期待される。さらにAdh-SFFとルシフェラーゼを発現したNIH3T3細胞を用いて、マウス皮内への細胞移植実験を行った結果、細胞生着効率に改善が見られる移植条件を見出した。今後、さらに化合物の構造や移植条件の最適化によって細胞生着率の向上が期待できる結果である。
|
Strategy for Future Research Activity |
新たに見出したアドへサミン誘導体(Adh-SFF)は、従来とは異なる細胞死抑制メカニズムを有することが期待される。今後はそのメカニズム解明を完結させる。具体的には、シンデカンのクラスター化を確認するとともに、その細胞内シグナル経路を同定する。さらにAdh-SFFを用いて、適用できる細胞種の確認や細胞移植での条件を最適化する。その検討で得た最も優れた移植条件を用いて、動物への細胞移植実験を再度試みていく。 また上記とは別にAdh-SFFを用いて細胞表面へのタンパク質修飾技術を開発する。従来の細胞表面へのタンパク質修飾として、細胞膜に対して脂質アンカー分子を用いて修飾する技術や、細胞表面に存在する求核性アミノ酸残基に対して、求電子剤を用いた共有結合形成によって修飾する技術が報告されている。しかし、化合物の取扱い性(特に安定性や溶解性)が悪いことや、細胞の機能阻害や細胞へのダメージが懸念されていた。本手法は、取扱いが容易な小分子を用いて、細胞死を抑制しながら、細胞表面を修飾することができるマイルドな手法である。代表者らは、すでにアルキルハライドを導入したAdh-SFF誘導体を合成し、ハロタグシステムを介して蛍光タンパク質GFPを細胞表面に修飾することに成功した。今後は、成長因子などの機能性タンパク質を細胞表面に修飾し、移植細胞を機能化することで細胞移植効率の向上を目指していく。
|