2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K16655
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
津田 浩司 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (60581022)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | インドネシア / 華人 / 日本軍政 / 共榮報 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日本軍政下のインドネシア(旧蘭領東インド)における中華系住民(以下、華人)社会の具体的動向を、当時ジャワで華人向けとして発刊されていたものとしては唯一の日刊紙である『共榮報(Kung Yung Pao)』(華語版・ムラユ語版)の分析をもとに明らかにすることを目的としている。 平成28年度は、マラナタ・キリスト教大学(Universitas Kristen Maranatha)のSugiri Kustedja教授協力のもと、インドネシア国立図書館(Perpustakaan Nasional RI)所蔵の『共榮報』をすべて撮影し、データとして入手することができた。所蔵資料に一部欠落があったものの、次年度以降に同紙華語版およびムラユ語版を相互対照しつつ読み解くことで、これまで具体的動向がほとんど明らかではなかった同時期の華人社会の様子の一端を、再構築することが可能になるものと思われる。 平成28年度の成果としては、まず、本研究課題が主要な対象とする時代(1942~45年)と(華人社会をめぐる動向という観点では)連続性をもって捉えるべきスカルノ時代の末期(1950年代末~1960年代初頭)において、華人社会内で流通していた「帰国」(インドネシアから中国本土への移動)をめぐる言説のあり様を、スラバヤで刊行されていた週刊誌『リバティー(Liberty)』を読み込むことを通して具体的に整理・検討した。 また、インドネシア・ナショナリズムの黎明期から日本軍政期を挟み、さらにはスカルノ期、スハルト期、そしてポスト・スハルト期の現在にかけて、「民族=国民(bangsa)」を代表するものとしての「英雄」概念がいかに構築され、かつ「国家英雄」としていかに制度化され今に至っているかを、時代・地域の特性に注意を払いつつ多角的に論じた共編著を刊行した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、本研究の基盤となる『共榮報』の写真データを(一部欠落はあるものの)入手することができ、今後読み込み分析するための体制が整ったといえる。 また、過年度から進めてきた本研究課題に関連する研究の成果を複数点公開することができた。具体的には、特に以下の2つが大きな成果である。 ①【論文】「「帰国」をめぐる言説空間―1960年前後の『リバティー(Liberty)』誌の解題」 日本軍政期を経て独立した後のインドネシア社会に暮らす華人たちが直面した「帰国」をめぐる問題構成について、同時代の資料に依拠しつつ当時の言説空間の一端を再構成する作業に取り組んだ。この論文が扱う時代は、本研究課題が主要対象とする時代よりも10数年後のものではあるが、華人社会内部の政治的立場の分化を捉える上では両時代は連続性をもって考えるべきであり、その意味で本研究課題を肉付けする成果であるといえよう。また、本研究課題が今後主要に依拠する予定の研究手法の確立という面からも、本論文の試みは大いに資する成果であるといえる。 ②【共編著】『「国家英雄」が映すインドネシア』(木犀社, 2017年) 本論集は、蘭領期、日本軍政期を経て独立を達成したインドネシアにおいて、その担い手とされる「民族=国民」を代表する者として顕彰される存在としての「国家英雄(Pahlawan Nasional)」にかかわる表象や制度が(当の「民族=国民」概念の形成と同時並行的に)いかに形成され、また今現在いかに運用されているかについて、幅広く論じたものである。この中で本報告者は、(i)全体を俯瞰する序論を共同執筆するとともに、(ii)華人系の人物を国家英雄の殿堂に仲間入りさせるべく努めたある歴史学者の試みを取り上げつつ、インドネシア史の記述法をめぐる問題系の中に位置づける章を執筆した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度以降は、前年に入手した『共榮報』の資料を精確に読み込む作業を行う。資料読み込みにあたっては、東京大学、および早稲田大学アジア太平洋研究センター等に所蔵されている南方軍政関連資料と読み合せ、また日本軍政研究を推進してきた国内外の研究者とも適宜意見交換しつつ進めていく。 加えて、日本軍政期の華人社会の動向を『共榮報』記載のテクスト外からも多角的に捉えるために、ジャワ島各地に散逸している同時代の史資料を、各地(ジャカルタ、バンドゥン、スマラン、ジョグジャカルタ、スラバヤ等の諸都市)の図書館ならびに華人関連団体にて可能な限り入手し、読み合せを行っていく。 なお、本研究課題に直接的に配分されている予算の射程外ではあるが、『共榮報』の資料公開についても実質的な検討を進めていく。現時点では可能な限り書籍としての刊行を目指すものとするが、諸々の制約がある場合にはウェブ上での公開(場合によっては限定公開)も検討する。
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[Presentation] 体制転換とインドネシア華人―『「華人性」の民族誌』への著者解題2016
Author(s)
津田浩司
Organizer
体制転換の人類学ー東欧、アジア、アフリカにおける体制転換と社会, AA研基幹研究「アジア・アフリカにおけるハザードに対する「在来知」の可能性の探求―人類学におけるミクロ-マクロ系の連関2」
Place of Presentation
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所(東京都府中市)
Year and Date
2016-05-21
Invited
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