2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K16672
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
小門 穂 大阪大学, 医学系研究科, 特任助教(常勤) (20706650)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 生殖ツーリズム / 代理出産ツーリズム / 同性カップルと生殖補助医療 / 生殖補助医療の法規制 / フランス生命倫理法 / 欧州人権裁判所 / EU / フランス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、フランスを例に、生殖ツーリズムの依頼者送り出し国において国内で禁止されている生殖補助医療を受けるために外国へ赴く生殖ツーリズムがどのように実施されているか、生殖ツーリズムを受けた者が帰国後どうなるのか、生まれてきた子どもがどのように保護されているかを明らかにすることである。生殖ツーリズムでは、国内での実施が認められていない医療行為を外国で受けるという行為に対する国内での対応と、生殖ツーリズムの結果生まれてきた子どもに対して保障すべき福祉がしばしば対立する。フランス社会が、「法的に容認されていない医療技術を用いて子どもを作ること」にどのように対応しているかを明らかにすることを目指す。本研究の推進と成果発信により、生殖ツーリズムの依頼者送り出し国における、子どもの保護を含めた生殖ツーリズムに対するよりよい規制のあり方を示すことができると考えている。 フランス国内で容認されていない生殖補助医療を求めて外国に渡航する生殖ツーリズムの全貌を明らかにすることは困難であるが、すでに生まれた子どもの親子関係や国籍の付与をめぐる裁判例が複数存在する。また生命倫理法および同性婚法の策定と改正に関わる審議においても生殖ツーリズムの扱いに関する議論が行われている。平成28年度中は、これらの資料を主な対象として、1994年生命倫理法成立後に、生殖ツーリズム実施者が帰国後にどのような扱いを受けるか、生殖ツーリズム受け入れ国における代理母や卵子提供者の保護についてはどのように言及されているのか、生まれてきた子どもの福祉がどのように考えられどのように保障されるのか、フランス人依頼者と子どもの親子関係の法的承認に関してどのような変化があったのか、また生殖ツーリズムが引き起こす課題に対してどのような解決法が検討されてきたのかについて情報を収集し、おおまかな全体像の把握を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
文献調査、現地調査ともにほぼ予定通りに進めることができたと考えている。成果として、平成28年度に予定していたとおり日本医事法学会および生命倫理学会での中間報告を行うことができた。こういった状況から、順調であると判断した。 平成28年度は、裁判関連資料を中心とする文献調査、フランスにおける資料・情報収集および学術交流(法学者、倫理学者、生物医学庁、当事者団体)、日本生命倫理学会における口頭報告および日本医事法学会における口頭報告とこの報告をもととする論文の執筆を行った。 フランス人が外国で実施した代理出産、有償での卵子提供、女性カップルによる提供精子の利用といった生殖ツーリズムについて、どのようなケースがあるのか、子どもの国内での親子関係はどのようになっているのかについて現状の把握に努めた。これらから、男女カップルによる国外での卵子提供の受領は、国内で法的に認められている行為であり、親子関係に関する問題は起こっていない。女性同性カップルによる精子提供の受領は、国内法では認められていないが、外国での実施後に生まれた子どもと実母の親子関係構築には問題がなく、2013年同性婚法成立以降、実母の女性配偶者による養子縁組が認められやすくなっている。代理出産では、2014年の欧州人権裁判所判決を受けて、2015年・2016年に破毀院が男性依頼者による代理出産での父子関係を認めるという方針転換があった。男女のカップルが依頼者となる場合に、依頼女性と代理出産で生まれた子の母子関係については、これまで認められておらず、欧州人権裁判所判決後どのように変わってゆくのかはまだわからない。このようにまとめると、生殖ツーリズムの場合、国内で法的に容認されているかどうか、ではなく、子どもを産んだ女性が母親であるという親子関係が認められやすいといえると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目となる平成29年度は、主に文献調査を続行する予定である。28年度の文献調査および学術交流の成果として、欧州人権裁判所判決の持つフランス国内の裁判所判決への影響力に着目できたことが挙げられる。欧州人権裁判所についての資料収集をさらに進め、考察を深めたい。これらの裁判所関連資料を中心に、「法的に容認されていない医療技術を用いて子どもを作ること」を実行した者がどのように扱われてきたのか、生殖ツーリズム受け入れ国における代理母や卵子提供者の保護についてはどのように言及されているのか、生まれてきた子どもの福祉がどのように考えられどのように保障されるのか、フランス人依頼者と子どもの親子関係の法的承認に関してどのような変化があったのか、また生殖ツーリズムが引き起こす課題に対してどのような解決法が検討されてきたのかを明らかにする。フランスの事例を通して、生まれてくる子どもの保護を含めた生殖ツーリズムの規制のよりよいあり方の可能性を検討したい。 本研究は主にフランスを対象とするものであるが、日本との比較も視野に入れたい。日本では、生殖補助医療に対する法規制が作られようとしており、また、日本人による生殖ツーリズムに対する対策が急がれているという現状がある。29年度は日本人による生殖ツーリズムの現状についても目配りしたいと考えている。フランスにおける生殖ツーリズムに対する規制と、生殖ツーリズムの結果生まれてきた子どもの扱われ方がどのように変化してきたかについて丁寧に読み解くことで、日本における生命倫理研究だけではなく、ポリシー策定においても資するものであると考える。
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Causes of Carryover |
おおむね順調に使用できたと考えているが、最終的な残額では希望する書籍が購入できなかったので、次年度に合わせて使用することとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
29年度の予算と合わせて書籍購入費に当てる予定である。
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