2016 Fiscal Year Research-status Report
身体障害者の観光の現状と阻害要因に関する実証的研究
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16K16678
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
韓 準祐 立命館大学, 文学部, 助教 (00727472)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 身体障害者 / 観光 / 旅行 / 余暇 / 阻害要因 |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年度に行った文献レビューと調査結果の内容をまとめる。1.文献レビュー まず、観光研究における移動を含む自立した行動が困難な障害者、高齢者等の社会的弱者に関する研究が十分に行われていない現状を文献レビューを通して確認した。また、ソーシャル・ツーリズムの領域において日本でも、1948年に政府が内閣に観光政策審議会の前進である観光事業審議会を設置したが、55年に同審議会の中にソーシャル・ツーリズム研究部会を設置し、議論が行われた。ただ、身体障害者に対する配慮がその時期から充実されたかというと必ずしもそうではない。社会学者のアーリが述べているように、旅行・観光は、「生活の手段」(アーリ、2015:13)になっているとも言える今日でも、観光研究における身体障害者に対する焦点化はいまだに限定されている。自立した観光行動が困難な障害者や高齢者を社会的弱者と捉える場合、観光研究における社会的弱者というカテゴリーには、従来ホスト側、とりわけ経済的に困窮なエスニック・グループがその対象であり、ゲスト側が社会的弱者として論じられることはなかった(例えば、江口,2010)。その理由は、観光をするゲスト側は、観光客を迎えるホスト側より優位な立場にいることが前提とされたためである。そのような視座から観光研究においても移動や観光行動に制約がかかる障害者や高齢者に対する焦点化が遅れたと考えられる。2.調査の内容 所属校であった立命館大学(衣笠キャンパス)に設置されている障害学生支援室のコーディネーター柏淳子氏と大塚ひろみ氏へのインタビュー調査を行った。身体障害者学生は約50名、支援室のサポート(授業ノートの作成、移動の手伝い等)を受けている学士は13名で、支援する学生は約50名いる。支援はボランティアではなく、有償で行われている。他方では、生活圏における身体障害者の移動に対する参与観察も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度に当たる2016年度には、身体障害者の観光・旅行を含む余暇活動に関する文献レビューとインタビュー調査を計画していた。実際に、身体障害者の旅行・観光を含む余暇活動に関する基礎的データの入手分析は続けており、さらに文献レビューも継続し、整理できている。また身体障害者本人へのインタビューは行っていないが(日程調整ができなかったため)、彼らを支援する学校法人側の取り組みを把握することや生活圏での移動における阻害要因の分析は参与観察を続けてきた。身体障害者本人へのインタビューは2014年度から行っており、基礎となるデータの収集はできているが、引き続き、追加調査を計画している。文献レビューと地域の取り組みに関する考察を継続するなかで、地域行政やNPO等の多様な主体が身体障害者や高齢者等のサポートに取り組んでいること、また見えてくる課題等を整理することもできた。その共同研究と本研究の関連性については次のように考えている。バリアフリーという概念は捉え方によってはそれが含む範囲が大きく変わる可能性があるが、本研究での身体障害者の余暇活動における現状及び阻害要因を考察する際、広義的バリアフリーは研究にも関連するといえる。ただ、バリアフリーという用語を狭義的に捉えることは望ましくないと考えており、身体障害者の旅行・観光の現状と阻害要因の全体像の究明に取り組んでいきたい。上述の理由からおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目である今年度(2017年度)は、インタビュー調査とアンケート調査の実施を進める。インタビュー調査は、まず、大分県別府市にある自立支援センターを通じて、身体障害者とその家族、ヘルパーにインタビュー調査を行う。また、所属校の身体的障害を持つ学生らにもグループインタビュー調査を実施し、余暇活動の現状と阻害要因に関する現状と意見等を整理する。そのインタビュー内容とこれまでの文献レビューの成果を踏まえて、アンケート調査は計画通り、前期に1回予備調査を行う。結果を統計分析(主に因子分析)で確認し、阻害要因に関するアンケートの精度を高めたうえで、本調査を後期に行う。調査結果は、SPSSソフトを用いて結果をコーディングし、統計分析を行い、旅行・観光を含む余暇の現状とその活動における阻害要因を明らかにする。アンケート分析の際には、中村・ 西村・髙井(2014)の研究成果を参照し、また、2014年度から2016年度まで研究分担者としてかかわった科研基盤研究C(課題名:観光まちづくりにおける阻害要因に関する実証的研究、課題番号:26380734)の経験を活しながら、統計分析(相関、t 検定、分散、因子、回帰分析等) を行う。アンケートの統計分析の結果観光関連学会で口頭発表を行い、コメント・助言を参照 しながら、それまでの成果を論文としてまとめ、日本観光研究学会に投稿する。 さらに2017年度には、少なくとも5回(目標10回以上)、身体障害者の旅行・観光行動への参与観察を実施する。 参与観察に関しては、身体障害者の帰省、スポーツの試合観戦、コンサート観賞、入浴といっ た余暇活動に家族あるいはガイド・ヘルパーと共に行動しながら観察を行う。上記の参与観察が困難な場合は、日常生活での移動や買い物等に対する観察を行うことにする。
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Causes of Carryover |
研究初年度の2016年度には、文献レビューと参与観察、そしてインタビュー調査を主に実施したが、次のような理由で次年度の使用額が発生したと考えている。まず、インタビュー調査は所属大学の障害者支援室で実施しており、交通費と宿泊費が必要なインタビュー調査は行わなかった。また参与観察も当時生活していた京都市を中心に行い、他地域におけるバリアフリー状況、身体障害者の利用現状においても別の用件等の移動の際に観察することが多かった。さらに、計画の段階ではインタビュー調査のテープ起こし(文字お越し)を業者に依頼するつもりだったが、今年度に関しては自ら作業を行い、内容を整理することに努めた。上述のようなことで、計画の際の使用額と実際の使用額との差が生じたのである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2017年度には、インタビュー調査と参与観察、アンケート調査を実施する。インタビュー調査は、本計画書の提出以前から調査を続けている大分県別府市の障害者自立支援センターを通じて、身体障害者本人と彼らの家族、支援センターで働くヘルパーに聞き取りを行う予定である。また、多摩大学に在学している身体に障害をもつ学生に対するインタビュー調査も計画しており、グループインタビュー調査と個人インタビュー、両方の調査を考えている。さらにアンケート調査を行い、2017年度購入予定のSPSS(統計ソフト)を通して予備調査結果を分析し課題を修正した後、本調査に移る。さらに所属機関に在学する学生の余暇活動を参与観察することを数回計画している。加えて、障害者を主にターゲットとする旅行商品への参加を2017年度中に一回行うつもりである。そういった企画には可能であれば所属機関の学生と一緒に参加することを考えている。
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