2017 Fiscal Year Research-status Report
推論の自然化へ向けた哲学理論の構築:動物・幼児における「言語なき推論」に着目して
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16K16687
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Research Institution | Tamagawa University |
Principal Investigator |
小口 峰樹 玉川大学, 脳科学研究所, 特任助教 (30597258)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | モーガンの公準 / 前頭前野機能 / 深層学習 / 対称性推論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、第一に、昨年度から検討を続けている、「モーガンの公準」の批判的検討を通じて動物や幼児に対する推論帰属の可否に迫るという研究を、国際理論心理学会におけるワークショップにおいて発表した。 第二に、神経科学と人工知能との関係性についての考察を行い、推論や思考を司る前頭前野機能に対して、神経科学と人工知能の協働を通じてどのようにアプローチしうるかという検討を行った。近年における深層学習の発展を受け、神経科学の側において、人工知能を単なるデータ解析の道具としてではなく、どのような計算原理に基づいて神経回路が諸々の機能を実現しているかを解明するための源泉となるモデルとして捉えようという動きが生じている。すなわち、脳が実現している何らかの機能を遂行するように人工知能を構築し、その人工知能に対するリバース・エンジニアリングを行うことで、脳機能を実現する計算原理に迫ろうというアプローチである。こうしたアプローチに関する文献調査を行うことで、まず、神経科学と人工知能の新たな協働関係を構築する上では、「深層学習における中間層のブラックボックス化」と「深層学習における機能の非生物学的な実現」という二つの問題があるという議論を展開した。そして、前頭前野が実現している計算機構の解明という観点から、どのようにこれら二つの問題を克服しうるかを、感覚皮質の場合と比較しつつ提案する議論を構築した。以上は推論の自然化へ向けた方法論的な考察として展開されたものであり、その成果は科学基礎論学会秋の例会でのワークショップにおいて報告した。 第三に、「対称性推論」(「AならばB」から「BならばA」を導くような推論)に着目し、対称性推論を題材とした動物行動学や神経生理学における実験的・理論的研究に関する文献調査を行った。この調査は研究発表の形にまとめるため次年度へ継続予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、動物行動学や発達心理学、ならびに神経生理学における知見を参照しながら、言語をもたない動物や言語習得以前の幼児における推論の可能性とそのメカニズムの探求を通じて、推論の「自然化」へ向けた哲学的な理論の構築を行うことである。 そのために本研究では、(a) 動物や幼児に対して推論帰属を否定する議論に対する批判的検討、(b) 動物や幼児に対する推論帰属の可否に関する、推論研究を題材とした検討、(c) 動物や幼児における推論(様)能力のモデル化、(d) 言語なしの推論の神経基盤に関する検討、という4つの小課題を設定する。 本年度は、これらの小課題のうち、(a)と(b)の研究成果を国際会議の場において発表した。また、神経科学と人工知能の関係性に関する検討を通じて、(d)に関する方法論的な考察を行った。また、対称性推論に着目し、(b)と(c)に関する文献調査を行った。研究の進展によって新たな問題設定が生じ、研究当初は想定していなかった人工知能の検討や対称性推論の検討が加わったものの、そうした検討において研究発表につながる成果が得られており、おおむね順調に進展しているという評価を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究においては、第一に、本研究が設定した小課題のうち(b)、(c)、(d)に関わるものとして、「対称性推論」に関する検討を中心に行う。対称性は、「A→B」から「B→A」を導くような推論であり、Sidmanが刺激等価性の成立要件として挙げた三つの要件の一つである(他は反射性と推移性)。言語習得期以降の人間は容易に対称性推論を行うことができるのに対し、それ以外の動物では対称性推論が成立しえた証拠はわずかにしか得られていない。このことから、対称性は、推論を非言語的な動物からの連続性のなかで捉えることで自然化可能かどうかを検討するという本研究において、とりわけ重要な位置づけをもつ推論様式であると言える。今後は、対称性に対する説明を与えるものとして提案されている諸理論(Sidman理論、関係枠理論、ネーミング理論)の批判的検討を行い、対称性を含む推論の妥当なモデル構築や、対称性を検証するための実験枠組み、そして対称性を可能にする神経基盤に関する考察を遂行する。そして、これまでの研究成果に関して論文化を進め、国内外の学術誌からの刊行を行うとともに、国際的な学会や研究会での発表を行う予定である。
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Research Products
(3 results)