2016 Fiscal Year Research-status Report
現存大蔵経諸本をもちいた〈阿闍世王経〉漢訳諸本に関する文献学的研究
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16K16694
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Research Institution | Otani University |
Principal Investigator |
宮崎 展昌 大谷大学, 文学部, 助教 (70773729)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 阿闍世王経 / 普超三昧経 / 日本古写経 / 聖語蔵経巻 / 高麗大蔵経(高麗蔵) / 七寺一切経 / 興聖寺一切経 / 房山石経 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は〈阿闍世王経〉漢訳諸本に関する資料の収集を行いながら、それらの調査およびデータの入力、これまでの研究成果の発表を行なった。 1、資料の収集に関しては、京都・興聖寺蔵の写本一切経、名古屋・七寺蔵の写本一切経、大谷大学所蔵の高麗大蔵経再雕本(日本で現存する最古の高麗蔵再雕本と推定されるもの)、宋版(思渓蔵)、丹山順芸校訂の鉄眼版(黄檗版)などについて閲覧・撮影あるいは複写資料を収集することができた。特に前2者は平安末期の古写一切経であり、大変貴重な資料である。 2、竺法護訳『普超三昧経』については、房山石経、聖語蔵経巻と高麗蔵2種に加えて、新たに、興聖寺、七寺の両一切経、磧砂蔵、宮内庁書陵部蔵の福州版を校合し、それらのデータの入力を済ませた。支婁迦讖訳『阿闍世王経』については、高麗蔵再雕本、聖語蔵経巻、金蔵に加えて、新たに興聖寺および七寺一切経との校合を完了し、思渓蔵、磧砂蔵、宮内庁書陵部蔵の福州版との校合を現在行なっている。 3、竺法護訳『普超三昧経』の大蔵経諸本のうち、房山石経、聖語蔵経巻と高麗蔵2種の異読の共有関係に注目し、それらの相互関係に関する研究成果を公表した。本経に関しては、巻中・下のみに限定されたかたちで、高麗蔵初雕本と聖語蔵経巻の間に顕著な近似性が確認され、その両者は、系統関係上、かなり近しいと推定される。一方、高麗蔵再雕本は開宝蔵を底本とし、初雕本とは兄弟関係にあり、その制作にあたっては房山石経の底本とされる契丹蔵も参照にしたとみられることが異読の共有関係の上からも確かめられた。 4、〈阿闍世王経〉の基礎研究の一環として、数年来取り組んでいるチベット語訳〈阿闍世王経〉全体の訳注研究の公表に先駆け、同第2章の訳注研究を雑誌論文のかたちで公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
資料の収集に関しては、所蔵寺院ならびに国際仏教学大学院大学の落合先生や大谷大学の渡邊温子氏の協力により、七寺一切経ならびに興聖寺一切経について撮影もしくは複写資料を入手することができた。一方、大谷大学図書館所蔵の諸資料については、同図書館および人文情報学研究所の協力のもと、撮影および複写することができた。さらに、今年度末には、高野山金剛峯寺、高野山霊宝館および京都国立博物館の協力のもと、中尊寺経のマイクロフィルム資料を閲覧することができた。2017年度初めには同資料の複写を申請し、調査に用いる予定である。初年度の段階で、以上のような貴重な諸資料にアクセスできたことで、資料収集については想定よりも順調に進んだ。 校合作業に関しては、『普超三昧経』については新たに入手できた資料を用いて校合作業を行い、その入力作業まで完了できた。『阿闍世王経』に関しては、日本古写一切経については校合作業を完了し、他の江南諸蔵の諸本との校合作業を現在行なっている。後者については、予定よりもやや遅れているが、深刻なものではなく、2017年度中に十分回復できる範囲である。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画通り、2017年度も資料の収集と校合作業および入力作業を継続する。それらにもとづいて、主に異読の共有関係に関して、調査・分析を行う。資料の収集に関しては、上記のように閲覧できた中尊寺経を調査に用いる。他の日本古写一切経についても引き続き資料収集を継続する。校合作業および入力作業については、現在取り組んでいる『阿闍世王経』の校合作業および入力作業を速やかに完了させることを目指す。また、当初用いる予定ではなかったが、上記のように入手できた大谷大学所蔵の高麗大蔵経再雕本と丹山順芸校訂の鉄眼版についても調査する。 一方、チベット語訳〈阿闍世王経〉全体の訳注研究の公表にむけて、2017年度以降も雑誌論文のかたちで部分的に公表することを継続する予定である。
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Causes of Carryover |
入力作業を依頼できる適当な人材を確保することができず、謝金を使用しなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は海外で開催される国際学会(カナダ・トロント、8月)に参加する予定であり、その他、資料収集のための撮影・印刷代や学会参加のための国内旅費等に使用する予定である。データの入力補助に対する謝金については、想定よりも研究代表者による入力作業が捗っていることもあり、入力作業は依頼せずに、上記のような経費に使用する予定である。
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Research Products
(4 results)