2020 Fiscal Year Research-status Report
『楞伽経』第2章のサンスクリットテキスト校訂ならびに訳注、思想研究
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16K16697
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
堀内 俊郎 東洋大学, 東洋学研究所, 客員研究員 (60600187)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 『楞伽経』 / サンスクリット写本 / 智吉祥賢 / 智金剛 |
Outline of Annual Research Achievements |
大乗経典『楞伽経』第2章のサンスクリット写本に基づく読み直しと、チベット語として残る注釈も参照した思想研究を、今年度も継続して行った。 今年度は、第2章のある一節を20の写本に基づき検討を加えた英語論文を発表した。そこでは、写本について、Ry(梵文佛典写本聚英、龍谷大学仏教文化研究所、法蔵館)がのちの6写本の原本となっていたことを突き止めた。そもそも年代的にはRyはそれらより古いとされている。また、そこにみられる読みの類似性から、Schmithausen2020もそれらをRyと同じ系統に分類し、Ryに着目していた。しかし、それらがRyの直接的な写しである箇所を指摘したのはこれが初めてである。この発見により、『楞伽経』のテクスト研究において実質的に残りの6写本は見る必要がないということとなる。その他、写本の大まかな系統についても検討を加えた。 さらに、写本や漢訳やチベット語訳の参照によっても従来理解されていなかった箇所があった。その箇所について、チベット語として残るジュニャーニャシュリーバドラ(智吉祥賢)の注釈に基づいて本来のテクストの復元をなしうることを示すことができ、当該箇所を読み解くことができた。なお、この注釈は、ジュニャーニャヴァジュラ(智金剛)の注釈とともに、はじめからチベット語で書かれたものと思われる。しかし、今回の指摘によって、思想的のみならず、テクストの校訂についても重要な示唆を与えるものであることが分かった。 このように、『楞伽経』のサンスクリット写本研究、注釈書の研究を進めることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、『楞伽経』について、重要な写本に絞って、テクストの読み直しを図り、また、2つの注釈書も参照しつつ思想研究を行うというものであり、着実な成果を上げてきた。南条校訂本は4つの写本に基づくeditio princepsであり労作であるが問題が多く、その後、さらに多くの写本が発見されてきたため、抜本的な読み直しが求められていた。現在では30ほどの写本が知られているがすべて年代的に新しい紙写本である。そのなか、T1写本は年代的に最も古く、唯一の貝葉写本であるので、本研究ではそれを重視してきた。また、漢訳やチベット語訳も、テクスト読解やサンスクリットテクストの校訂のために有益であることを示してきた。 しかし、研究を進めるうちにT1写本は必ずしも良い読みを保持しているわけではないことが明らかになってきた(これ自体も本研究の一つの成果なのであるが)。また、今年度、Schmithausen2020が30もの写本に基づく別の章の研究を発表したことにより、本研究も多少の方向修正を余儀なくされている。 そのため、今年度の発表論文では20のサンスクリット写本を参照して、ある一節を検討することとなったため、研究に多少の遅れと変更が生じたから(いくつかの写本は完本ではないので当該論文で扱った箇所が欠落していた)。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は大乗経典『楞伽経』について、最古の貝葉写本であるT1を特に重視して、漢訳やチベット語訳も参照しつつ、サンスクリット写本の読み直しと、チベット語に残る2つの注釈書も参照して思想研究を行うというものであった。しかし、研究の進展により、T1写本が必ずしも最良のものでないことが判明し、また、より多くのサンスクリット写本を見るという研究傾向も現れてきた。そのようななか、Ryが後代の6つの写本の原本となった重要写本であることが、本年度の研究で明らかとなった。また、写本の系統も、Schmithausen2020や本年度の本研究で明らかとなってきた。 そこで、次年度は、T1に加え、Ryを重要写本として重視することとしたい。また、校訂ということになれば入手しうる限りでの写本を参照することが望ましいが現実的ではない(20-30ほどの写本があるため)。そこで、T1、Ryや、その他の系統を代表する写本を中心にしてテクストの読み直しを図り、難解あるいは重要箇所に絞っては他の多くの写本も参照するということとしたい。いずれにせよ、これによって、これまでの課題であり本研究の目的でもあった南条本の抜本的な読み直しという目的はある程度果たしうるものである。また、チベット語の2つの注釈書は分量が膨大なこともあってこれまで全訳もなく詳細な検討も存在しないため、徐々に読解を続けてゆき、難解箇所読解の参考にし、内容概観なども作成していきたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症による影響のため学会や研究会などがオンライン開催となり、予定していた出張経費などを使用することがなかったため。また、今年度は基本的に国際共同研究加速基金を使用し海外に滞在していたため、基課題である本科研費のほうはさほど使用しなかったため。 次年度も学会などはオンラインとなり出張経費を使用することがないことが予想されるため、発表原稿の英文校正や資料収集を中心にして、計画的に使用していきたい。
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Research Products
(2 results)