2017 Fiscal Year Research-status Report
明末清初の科学思想における自然の数値化:音律・天文・数学書の象数易学と西洋科学
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16K16710
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Research Institution | Rissho University |
Principal Investigator |
田中 有紀 立正大学, 経済学部, 准教授 (10632680)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 朱載イク / 象数易 / 江永 / 梅文鼎 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度はこれまでの方針を少し変更し、明末清初の思想家と、同時代の西欧で様々な発明・発見を行った科学者を比較し、伝統的な思想が新しい発明・発見にどのような影響を与えているのかについて考察した。たとえば、十二平均律を発明した朱載イクと、新しい天体運動の法則を発見したケプラーの比較である。両者はそれぞれ、象数易(数理的易学)と占星術という「魔術」(この「魔術」は「自然魔術」を指す)を深く信奉しながら、輝かしい発明・発見を生みだした。「魔術」はたまたま「科学」を生んだだけなのか、それとも「魔術」こそが「科学」を生む大きな原動力となっていたのだろうか。報告者は、象数易や占星術という「魔術」がもともと持っていた実用性を骨抜きにし、あくまでも「宇宙が何故そうなっているのか」の説明原理にとどめることで、「魔術」が「科学」へと転換する可能性を生んだと結論付けた(この内容については平成30年度出版予定の著書に掲載する予定である)。 また、同じく象数易への造詣が深い江永(1681―1762)の天文学に関する文献の分析を行った。江永の音律学・象数易学著作については以前検討を行ったが、江永の『河洛精蘊』をさらに詳細に検討し、江永の象数易学理論を明らかにした上で、西洋天文学を紹介した『推歩法解』や『数学』などの文献を分析した。江永の天文学には梅文鼎(1633-1721)の学問が大きな影響を与えている。西洋科学の優位が盛んに論じられる傾向に警鐘を鳴らし、中国伝統科学の中にも、西洋科学と同様の理論が存在したこと(西学中源説)を主張した梅文鼎に対し、江永は西学偏重だと言われる。報告者は江永の著作を分析し、江永の意図が、必ずしも西学を唱道することだけではないことを明らかにした(この内容については平成30年度中に論文で発表する予定である)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は育児休業から復帰したばかりで、校務や授業に追われ、思うように研究が進まなかった。しかし、論文発表には至らなかったものの、文献の読解は確実に進んでいるので、次年度にその成果を発表していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定では、徐光啓や李之藻、李光地などの文献も取り扱う予定であったが、江永と梅文鼎の文献を中心に研究を進めていく方が、より詳細で密度の濃い研究となると考えられる。また、研究範囲を音楽と天文暦法にとどめ、江永らの文献を分析すると同時に、音律論と天文暦法の歴史を整理しながら、中国の思想家たちが、自分たちの持っていた技術や理論についてどのように考え、どのように応用しようとしていたかに注目し、研究を進めていきたい。 具体的には、伝統楽器を復元し、当時の演奏技術と結びつけることで新しい音楽を作ろうとした思想家を何人かとりあげ、その象数学的思惟との関連を考察する(2018年7月に行われる国際ワークショップで報告予定)。また、『孟子』の今楽思想が、その後の儒家の楽論の中でどのように解釈され、応用されていったのかという問題を、技術論と結びつけながら考察する(2018年9月に中国で行われる国際学会で報告予定)。さらに、朱載イクや江永の礼楽思想が、彼らの「科学」的発想にどのような影響を与えたのかについて分析する(2018年11月に中国で行われる国際学会で報告予定)。最後に、近現代中国において伝統音楽や伝統科学について、西洋音楽や西洋科学との比較の中で考察を深めた思想家の文献を取り上げ、その意義について考察する(2019年1月に行われる国際ワークショップで報告予定)。国際学会やワークショップで報告した論文は、中国で刊行される学術雑誌や日本の学術雑誌に投稿する予定である。
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Causes of Carryover |
次年度に国際学会に複数参加予定のため、その旅費として使用する予定である。
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